男一匹納涼祭

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 翌日、新之助は心配して屋敷の前にやって来た人々に首実験させてから言った。 「どうだ!この通り幽霊を退治したぞ!したがってこれから身どもの屋敷へ訪れたくば、安心して来るがよい」  人々は尋常でなく驚嘆し、女の花顔、将又、新之助の面魂に瞠若たらしめられるのだった。その内、これでは浮かばれない!またお化けになったら大変だ!との声が人々から上がったので新之助は成仏させようと高僧を呼んで生首の前で読経させた。  すると、生首は穏やかな表情になりながら見る見る内に消えて行った。それを目の当たりにした新之助は、ぞくっとする程、消え行く女の顔が美しいと思ったから女に未練を残した。  その後、新之助は毎晩のように女を代わる代わる屋敷へ呼んでは情事に及んだが、美しさに於いてあの晩の女に勝る者はなく、あの女を到底忘れることが出来ず、真夏に起きたぞくっとする色めいた恐ろしい思い出としてこよなく心に刻まれることとなった。それと並行して霊の供養を怠らず、また自分の(さが)を思うと、結婚を危ぶみ、生涯独身で通した。
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