男一匹納涼祭

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 すると、女はより艶な声色を装って弱々しく言った。 「家に帰る途中、夜道に迷ってしまいました。女独り故、心細く身の危険を感じ、困っている次第でございます。どうか一晩泊めてくださいまし」  俺は寡男(やもお)だ。而も色摩だ。だからこんなことを頼む女は自ら虎穴に入るようなものだ。しかし女は幽霊だから俺にとっても危険なことだと新之助は思ったもののどんな美人か見たい気持ちが募るばかりで中へ入れてやることにした。  すると、雪をも欺く白さとはこのことかと思わせる青白い肌を持った、この世の物とは思われぬ美人であることが分かった新之助は、色摩の面目躍如として女を座敷に通すことにした。  いざ、女と差し向かいに座ると、元々破天荒で天邪鬼な新之助と雖も肌に粟を生じ、武者震いしたが、この暑さだ、丁度いい、今晩は納涼祭だと洒落っ気たっぷりに決め込む余裕を見せて言った。 「そなたは知らぬようだが、拙者、何を隠そう好色一代男。よってそなたがこの屋敷に踏み入ったのは謂わば、運の尽きと言えようか、取りも直さず身どもがそなたを引き入れたことは不徳の致すところと言えようか、ま、そんな訳で今晩、身どもに穢されることになろうが、それでも泊まりなさるか?」 「はい、あなたさまとでしたらよろしゅうございます」 「なんと!泥中の蓮を思わすそなたが嬉しいことを言ってくれるではないか。よし、それではまず晩酌と行こうではないか!酌をしてくれるかね」 「はい、喜んでして差し上げます」 「うむ。そなたの酌なら嘸かし美味であろう」
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