男一匹納涼祭

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 という訳で不気味に白く光る細長い雲がかかった月の妖光が縁側から射す中、快く晩酌が始まり進む内、いい塩梅に酔って来た新之助を女は与し易しと見て、しめやかな調子で言った。 「実はわたくしはその昔、この武家屋敷に嫁入りした女でございますが、夫に浮気をされ嫉妬の余り短刀で夫を突き殺そうとしたところ逆に斬り殺されてしまい、男への恨み辛みを晴らそうと夫を始めここに住まう男を絞め殺して来たのでございます」 「し、しかし、夫以外の男まで殺すことはなかろう・・・」と新之助は言った切り愈々来るべき時がきたかと思い息を呑んだ。 「けれども、男は皆、夫と似たような者でございます。ですからわたくしはこの様な姿になってあなた様を絞め殺すのでございます」と女は言いながら自分の首をにょきにょきにょろにょろ伸ばして行き、おどろおどろしいろくろ首になってしまった。 「おー!到頭、正体を現したな!拙者は美女には目がないが、首の長い女は好かん!」と新之助はきっぱり言うと、鹿角に掛けてあった太刀を取るや、鯉口を切って抜刀し、絞めかかろうとする長々と伸びた首を根元から一刀両断バッサリ輪切りにして斬り落とした。  香取神道流の居合術を見事に遣って退けたのだ。その結果、新之助は返り血を大量に浴び、女の四肢と胴体は消え失せ、首だけが残った。それを新之助は庭の松の幹から枝にかけて巻き付け、何とも恐ろしくも美しい奇妙な晒し首にすると、一句詠んだ。 「絡みつく白蛇の下に松落ち葉」
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