若き葛藤の書

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「青春」 ポケットに手を突っ込んで何を語ろうか 遠い祖先は博奕打ちだった 凌ぎの金をかっさらい今は死んだ婆だった 俺には勝負師の血が流れている 負けるとなれば泪を流して苦汁を噛み締めた 若き快楽を知った 女じゃあない 賭け事だ 何かあれば将棋盤を引っ張り出し 猛者ども相手に指した俺は強かった 黄金の夏が懐かしい 万物が喜びに 溢れていた 俺は畔にて大声で叫び 楽意なる人生を謳歌した 夜になれば煙草と酒が俺の兄だった 三日月の下で俺は鬼殺しを飲み ゴールデンバットを燻らしていた 俺は学徒になっていた  デカルトを読めば 偏屈な奴だと思い カントを読めば 生きづらさを感じ ショーペンハウエルを 読めば絶望を知った  俺はロスチャイルドのワインを飲み 外を眺め哲学書を 片っ端から読み、宿題を終わらせた 夏だ 地獄の夏だ 俺の両親は 愛に溢れていた 姉といえば堅気一本 真面目に働いていた さて俺は? 俺は又天使になる 酔いどれた天使になる 噫神よ俺は久しく神と語らった 神はいつも決まって俺を正しい道へと 誘い俺はふと気づくと生かされていることに 涙腺が緩んだ 俺は勿忘草を好いた 素朴に美しい花だ 摘んだが 枯れてしまったので捨てた その時俺は自分がひどい男だと思った 残忍な俺は自分が猛る虎のようだと思った いつも孤独で煙草を呑み 空を仰いでいた俺は一天孤高であった 時折死を見つめるあんまり見つめていたから 俺の目は虚ろになり陰鬱とした 俺は逃げ場のない絶望を味わった 噫死にとうない! 死にとうない! 俺は部屋で独り捨てられた犬のように そのようなことを口にしていた 地獄の季節は終わらない 俺は晩年、偉大な哲学者のように発狂しないか 不安であった 俺は星座を見つめていた 大熊座だ 星を見つめていたら 急に不安になり発狂するかと思った それは天体との調和であり 俺は地球に住むには繊細過ぎたのかもしれない
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