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 見上げると、真っ黒な空間に光の塊が浮かんでいる。丸い光の塊は、その後ゆっくりと下降して、佐和子のすぐ目の前までやってきた。佐和子が恐る恐る手を差し出すと、光の塊はその手の上に、緩やかに着地した。そこにあったのは、手の平に収まるくらいの、光る小さな紙切れだった。 『あぁ、もう! 説明すること多すぎー! これだから、自殺は嫌なのよ!』  モカは、ぐしゃぐしゃと、髪を掻きむしった。 「モカさん、あとは紙の説明だけです。頑張ってください」  すかさずレオが声を掛ける。モカは項垂(うなだ)れていたが、しばらくして重たい頭を上げた。 『むぅ……分かったわよ……』  彼女は小さく呟くと、乱れた髪を手でときながら、その髪を再び後ろで束ねた。 『これから話すのは、あくまでも"自殺だったら"、の話よ?』  髪ゴムが、パチンと音を立てる。モカは背筋を伸ばし、鋭い視線を一同に向けた。 『まず、ここの空間で過ごした記憶は、完全に消去される。もちろん、自分が一度死んだという記憶も含めて、全部ね。あとは自殺する前の、とある時点から意識が戻って、そこから先は、普通にそのまま過ごしてもらうだけ。でも、そうするとただの繰り返しで、また自殺願望が芽生えて、結局ここに戻ってくることになる可能性が高い。さっきも言ったように、日本としては、死者数をなるべく抑えたいわけだから、なんとか、その人が自殺しないルートに誘導したいわけ。そこで出てくるのが、その紙!』  モカは、まっすぐに佐和子を指差した。佐和子の手の中では、例の紙がキラキラと光り続けている。 『その紙に書いた内容は、生き返った後も、頭の中から消えない。つまり、手の平サイズの紙、一枚分だけ、覚えていられる……それが一回目に死んだときとの大きな違いよ』  すると、雄太が大きく首を振った。 「いやいや、待てよ。覚えてられるって言っても、たかが紙切れひとつ分の内容だろ? 何ができる? こんな紙切れ一枚で、生死がひっくり返ったら苦労しねーよ」 『ストップ!』  そのとき、一際大きな声が響いた。一同が見上げると、モカは頬を膨らまして、腕を組んでいた。
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