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左頬にヒンヤリとした感触。
それを知覚して、目を覚ました。
何も思い出せない。
少なくとも怪我はしていないことは分かる。思考も正常に働いている。不安要素があるとすれば、ここがどこなのか……その一点に尽きる。
辺りは一面真っ白だった。
こう表現すると、すごくファンタジックなものに聞こえるかもしれないが、状況は全然違う。そこにあるのはただの白い空間で、床はあるが壁や天井を確認することはできない。
どこまでも白。
不安なくらい、白が続いている。
「あの」
いきなり予期してない方角から声が聞こえて、すぐさま後ろを振り向いた。そこにいたのは、黒のロングコートに身を包んだ少年で、口の端を下げたまま彼女を見下ろしていた。よく見ると、スラックスや革靴も黒で揃っており、その姿は喪服を連想させた。びくびくしながら立ち上がると、程なくして彼は口を開いた。
「すみませんが、今の状況を整理したいので、いくつかあなたに質問があります」
彼の顔は、やけに涼しかった。
──いや、こっちが色々聞きたいよ。
いつもならそうツッコミを入れているが、展開が早すぎてとても頭が追いつかない。
「氏名、月島あかりさん」
すると、考える間もなく、彼がまた喋り始めた。
「年齢、十七歳。高校二年生。蟹座、A型。身長一六三センチ、体重五十……」
「だあー!!!」
あかりは顔を真っ赤にした。思わず大きな声を出してしまったが、彼は全く微動だにしない。むしろ心拍数が上がったのはあかりの方で、ぜーぜーと呼吸をする度に、自分の肩が上下するのが分かった。
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