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「何その言い方? 自殺だとなんか悪いの? 死にたくなるような、大変な事情があったかもしれないじゃん。人の事情も知らないで……」
『佐和子ちゃん』
憤るあかりを無視して、モカは佐和子の名前を呼んだ。そして、その場にいる全員が、耳を疑うような言葉を口にした。
『もしかしたら、生き返ってもらうことになるかも』
一同は、驚愕した。
「聞き違いか? "生き返る"って……」
雄太は、すかさずあかりに耳打ちした。あかりは、眉間に皺を寄せた。
「私にも"生き返り"って、聞こえた……どういうことだろ?」
そのとき、モカが映し出されている画面の横に、また別の画面が出現した。新たに映し出されたそれは、何かの文書だった。
「ライフ・コーディネート……」
黒縁メガネの両端を持ち上げて、晴美が呟く。あかり自身、初めて聞く言葉だ。目を凝らすと、文書の中には、"生き返り"という言葉が所々に登場するが、さらっと読んだだけで、簡単に理解できるような内容では、到底なさそうだった。
『年間、どれだけの人が自殺するか知ってる?』
すると、モカが唐突に質問を挟んできた。改めて彼女を見たが、やはり視線は下がっていて、忙しそうにタイピングを続けている。年間の自殺者数なんて、あかりは今まで考えたこともなかった。だが、それはあかりだけではなかったようで、空間からは誰の声も上がらなかった。
『ニ万人、超えるんだって』
答えを待つのが不毛と感じたのか、モカは早々に正解発表を行った。
”一年で二万人”
その数の多さは、どこか現実味に欠けていたが、先程の佐和子の記憶を見てしまったあとでは、グサリと胸に刺さる数字だった。
『病気や事故、すでに起きてしまった出来事を、なかったことにするのは原則できない。だから、死っていうのは本来避けられないものになる。ただ、自殺の場合は、"死にたいくらい辛い気持ち"を取り除いてあげたり、考え方を少し変えてあげたりするだけで、"生きる"という選択肢も出てくるかもしれない……日本の人口減少はかなり深刻で、国としても死者数は出来るだけ減らしたい。だから、私たちが住んでいる日本では、自殺した者に一回だけ生きるチャンスを与えている』
モカは、静かにタイピングを終えた。そのタイミングで、あかりの後方が突然光出した。
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