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『先に言っとくけど、"生き返ったら次絶対死ぬな"なんて、ひとことも言ってないから。生き返った結果、たとえもう一度自殺してしまっても、別にペナルティーもないし、それはそれでいいの……要するに、"生き返るチャンスを与える"ってこと。で、こちらが用意してあげれるのが、紙切れ一枚だけ。だから、生き返って、その後も生き続けたいなら、紙の内容はよーくよく考えて。どーでもよかったら、適当に書いて提出してくれたらいいから』 「んなこと言っても、何書けばいいんだよ? "実は一回死んでて、せっかく生き返ったんだから、頑張れよ"とか書くのか?」  雄太が、少々ひねくれた言い回しをすると、モカは即座に首を振った。 『それはダメ。生き返ったことを直接的に伝えることは、禁止事項になっているの。それより、自分が何故死んだのか、もっと深掘りして考える。そうすれば、紙に書く内容は、自然と分かるはずよ……そのためには、まず佐和子ちゃんの死因を、はっきりさせないとね。"自殺"ってことで喋っちゃってるけど、今の時点だと、バスの事故で死んだのか、浴室で自殺したのか、分からないからさ……』 「あのさ、それについてなんだけど」  そのとき、あかりが割り込んできた。 「最初がバスの記憶、次が浴室の記憶なんだから……事故では奇跡的に助かったんだけど、その後に自殺したって話じゃ……」 「そんなに単純な話ではないんです」  すると、今度はレオが割り込んできた。 「思い出す順番と時系列は、必ずしもイコールではありません。仁科佐和子さんが思い出す順番はバス、浴室でしたが、実際に物事が起きた順番は浴室、バスかもしれません」  あかりが渋い顔をしていると、察したレオがそのまま付け加えをした。 「あなたが言ったように、事故で助かったが自殺したという説も、もちろん有効です。ただ、その逆。自殺し損ねて、事故死したという説も有効です。つまり、自殺願望がもともとあって、手首を傷付ける行為もたしかにしていたが、それは死因には全く関係なくて、結果的には事故に遭って死んでしまった……という可能性も考えられるわけです」 「ううん……なんか難しいのね……」  あかりは、眉をハの字にした。
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