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──7月下旬、お祭り当日。
神社の祭典の後、昼間は神輿が練り歩き、夕方に商店街そばの病院跡地で太鼓クラブの演奏を披露することになってる。
子ども達にとっては、昼は子ども神輿を担いで夜は夜宮の露店に行く、年に一度のお楽しみの日。
あの後、昴くんは数週間ぶりに太鼓クラブに来た。連れてくるのは浩司のお父さんかお母さん。
昴くんも初舞台を楽しみにしてて、ママに見せたかっただろうに。
美沙ちゃん、どうして逝ってしまったの。
空が茜色に染まり、会場に整然と並ぶ和太鼓。
法被姿にねじり鉢巻の子ども達がばちを握り締めて太鼓を叩く。演奏が始まった。
徐々に藍色に染まっていく空を背景に、吊るされた赤提灯が子ども達を照らす。
何重にも響く太鼓の轟きを、
その場の空気が力強く震えるあの振動を、
真剣に太鼓を叩く子ども達の表情を、
美沙ちゃんにも感じてほしかった。
ねえ、昴くんが一生懸命に叩いてるよ。
啓斗だけでなく、昴くんからも目が離せない。
こみ上げる涙が子ども達の輪郭を滲ませる。
美沙ちゃんに見せたいと、強く思った。きっと浩司も見ているはず。
すごく親しくしてた、って訳じゃない。
週に一回しか会わない関係だった。
それでも。同じ親の立場になって、前よりずっと近く感じてたんだ。
今、悲しみよりも何故か怒りが胸を占めている。
届かないと分かっていても、問いかけずにいられない。
──美沙ちゃん、なんで?
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