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現金書留の封筒を糊付けしてから、もう一通。送ることのない手紙をルーズリーフに書き始めた。
『拝啓、美沙ちゃん
突然の訃報に驚きました。
あなたが遠い彼方にいってしまったなんて信じられません。
話したいことも聞きたいこともたくさんあるけれど、一つだけ。
ただ、生きていてほしかった。』
──書けたのはそれだけ。
清書も投函もしない、遣り切れない想いを吐き出した紙は、ぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱に捨てた。
「翔太、ママ郵便局に行ってくるからお留守番お願いね。」
夏休みでゲーム三昧の息子に声をかけたけど、反応がない。
「こら、翔太っ!」
真剣に画面を見ながらコントローラーを動かす翔太を、タイムオーバーになったのを見計らって抱き締めた。
「ママ、あっついんだけど!」
嫌そうな表情でこちらを向く翔太。そんな表情すら愛おしい。
「ママ、翔太が大人になって結婚して、孫が生まれるまで長生きするからね。」
「何、どうしたの急に。」
突然そんなことを言った私に、翔太は不思議そうだった。
美沙ちゃんの訃報は驚きと悲しみをもたらしたけれど「翔太をこれからもずっと見守りたい」という想いを強くした。
──生きていく、これからも。
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