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ただ今は。
あの時美沙の話を聞けなかった分、
美沙の心に寄り添えなかった分。
美沙の分まで子ども達にそうしたいと思う。
美沙に問いかけることは減りつつある代わりに、空に向かって願うことが増えた。
どうかそこで笑っててくれ。
子ども達が元気に幸せに成長するように見守っててくれ。
本当は一緒に生きて一緒に年老いていきたかったけど。
皆が帰り支度をする中、美月はじっと空を見上げている。
「美月、どうした?」
しゃがんだまま美月の目線に合わせて空を見上げる。
「まま わあってうの」
たどたどしくも、確かにそう言った。
美月には美沙の姿が見えたのか?
立ち上がって空を見上げても、俺には見えない。
そのまま目を閉じて瞼の裏に描いた美沙は、笑っているように感じた。
『浩司、笑ってよ。
私、浩司の笑った顔が一番好き。』
美沙の声が聞こえた気がした。幻聴かもしれないけど。
──何言ってんだよ。先に死んじまって。
心の中で漏れた呟き。
目を開けたら澄んだ青空が広がっていて、自然と笑みが零れた。
美沙の笑顔の残像が、青空に柔らかく溶けた。
完
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