5人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
あの時、俺が美沙の着信に気づいていたら。
もっとちゃんと、俺が美沙の話を聞いていたらこんなことにはならなかったのか?
後悔よりも強い、悔恨の念が湧き上がる。
張り詰めた糸が切れたように、記憶はここで途切れた。
放心状態の俺の代わりに、親父と母さんが全てを進めてくれた。解剖を経て、美沙が自宅に帰ってくるまで数日を要した。
各種手続きで両親と俺がバタバタしている間、敬一伯父さんの家には本当に助けられた。
その息子で同級生の従兄弟、誠一の家でも奥さんの計らいで子ども達を預かってくれた。
伯父さんも誠一も美沙の死の詳細は家族限りで留めてくれたらしく、その配慮には感謝してもしきれない。
美沙の通夜と告別式には同級生達も多く参列してくれた。
皆が皆、早すぎる別れを惜しんだ。
「なんで亡くなったの?」
長年同じ町に暮らす同級生達の忌憚のない質問に、事実を伝えるのは憚られた。
「急性の心不全」としか言えなかった。
美沙を送り出す儀式を一通り終えて残ったのは、ちいさな骨壺。四十九日には納骨される。
それが美沙だって。実感なんか全然ない。
最初のコメントを投稿しよう!