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夫婦バトルその1
ーーー 仁科蒼真 Side ーーー
「みなさん、僕は今日私情のため定時に帰ります。なので残業はしないでください」
課内連絡時にそう伝えると何人かの部下から「っしゃあ」という声が漏れた。
最近忙しく定時に上がれない日々が続いている。そのせいで僕の計画は狂っているのだ。
愛しい妻、藤子さんにあの猫耳をつけさせて、『お腹空いたにゃん』と言わせるという僕の大計画が!!!
先日、会社主催のパーティーで会った知人と子猫の話をしたことがきっかけに、いつの間にか話題が猫耳になったのだが、それ以来僕は毎日猫になった藤子さんを妄想するようになっていた。
時間が空いた時に猫耳を探しに街へくり出すのだが、藤子さんの妖精のように可憐な頭につけるのに相応しい猫耳が見つからず、僕は苛立っていた。
そんなある日、僕は出会ったのだ。相応しい猫耳に。
それはアンティーク調の雑貨を取り扱っている雑貨屋で見つけた。中世西洋を連想するような商品が並ぶ店内の隅にそれはあった。
ロシアンブルーのような美しい毛並みの猫耳と、なんと肉球手袋、そして尻尾まで揃った仮装セット。
これだ!これは藤子さんにしか似合わない!藤子さんの為にどこぞの誰かが作ったものに違いない!
「すみません、これをください」
白く長い立派な顎髭を携えた店主に声をかければ、なぜか彼は困ったように笑う。
「すみませんな、お客さん。実はそれ予約が入っておっての、お売りすることができんのじゃよ」
なんだと…?
「同じものはないんですか?」
「今はないんじゃよ、すまんの」
悪びれる様子のないジジィ、失敬、店主に僕はまだ苛立ちを覚える。
売れない商品をなぜここに置いた?
「もし希望されるならすぐにお取り寄せしますが、どうしますかな」
「ではお願いします」
即答だった。
あんな上品で美しい猫セットは、きっと見つけ出せない。
その辺にある大量生産の安い猫耳など藤子さんの頭につけられるわけがない!
僕は入荷までの十日間、あの猫セットを付けた藤子さんをたくさん妄想しながら待っていた。
「蒼真さん、何を笑っているんですか?」
ソファに座っていると藤子さんが横に座った。
「猫のことを考えていたんです」
「蒼真さんも猫好きなんですね」
「藤子さんもですか?」
「私は普通です。どっちかというと犬の方が好きかな」
「犬ですか?」
「はい」
た、確かに。犬耳をつけた藤子さんもかわいい!
仕事帰りの僕の膝に乗って『会いたかったワン』なんて言われたら僕は、ぼ、僕は…
ああ、ああ…
「蒼真さん?どうしましたか?」
心配そうに顔を覗き込む藤子さんの頭に脳内で自動的に犬耳をつけてしまったせいか、200%割り増しに可愛くなってしまった藤子さん。
あああっ!藤子さん!なんであなたはそんなに可愛いのですか!
「わっ」
抱き締める以外の選択がなく、僕は藤子さんを腕の中に閉じ込め頬擦りをし、藤子さんの香りを堪能し、恥ずかしさに無意味な抵抗を試みる藤子さんの手首を掴んでうなじにキスを落としまくったのだった。
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