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素人による取り調べ
湯のみに注いだ熱い緑茶を坂本さんの前に置いた。
「お、サンキュ」
早速湯のみを持つ坂本さんに「熱いので気をつけて下さい」と注意してから、その隣、グルグル巻き状態の仁科さんの前にも湯のみを置く。
「どうぞ…」
「藤子さん」
「お前…、ストーカーにまでお茶出すとかお人好しすぎるって…」
「あ…」
ホントだ…。私ってば何で仁科さんにまでお茶用意しちゃったんだ…。しかも両手を拘束されているのだから飲める訳もないのに。
「…じゃ、じゃあこれは私が飲みます…」
「ああっ…、藤子さんの淹れてくれたお茶が…」
残念そうな顔をする仁科さんに見つめられ、一時的に忘れていた恐怖が蘇り、視界にその姿を入れないように坂本さんを見上げる。
「…ていうか、あの坂本さん。...なんで捕まえちゃったんですか…?」
恋人のフリをして仁科さんの私への執着をなくす…っていうのが目的だったはずだよね…?
「いやぁ、なんか恋人のフリでうまくいく気がしなくなってな…。捕まえた方が手っ取り早いんじゃねって思って。挑発してみたら飛び込んできたから、まあ、結果オーライだろ」
オーライなの、これ…?
「でも、これからどうするつもりなんですか?」
「まあ、あれだろ。俺たちで事情聴取だろ」
「私達で…?」
「ああ、警察になったみたいで楽しいだろ」
二ヒヒと少年のように笑ったのを見て、確信した。この人、遊んでる。切迫感とか、まるでゼロ。
まあ…お茶を用意している私も人の事言えないけど。
「あの、一つ確認したいんですけど。お二人の今の話を聞く限り、やっぱりさっきしてた会話は嘘、なんですよね」
「さっきしてた会話ってなんだよ」
「坂本さんと藤子さんが付き合ってるって会話です」
「ああ、あれな。あれは嘘だ。恋人のフリしたら仁科さんがストーカーやめるんじゃないかって蓬田の提案」
「嘘なんですね。よかった...」
グルグル巻きにされているというのに、背筋を伸ばして凛としている仁科さんは美しくて、本当にこの人はストーカーなのかと疑いそうになる。
不快感もあるし、気持ち悪いと思うのに、視界に入れるとどうしても目の保養にしかならなくて、まともな思考ができなくなりそうだと思った私は、湯のみを持って立ち上がり台所の隅へ移動した。
「藤子さんっ、どこへ」
「どこにも行ってねーだろ。アンタが怖いから離れただけだ。で、仁科さん、盗聴の罪は認めるのか?」
「…認めます」
「ほお。随分と素直に白状するじゃねーか。これじゃカツ丼はいらねーな」
…坂本さん…、取り調べごっこして遊んでる。チラッと見た顔が活き活きしてた…。
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