10 ありがとう、ごめんなさい、さようなら

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 私は一息ついて、すっと立ち上がった。 「お会計いくらですか?」 「……ケーキはサービスだから、350円です」 「しっかり通常価格じゃないですか。割引ないんかいって言いたくなりますよ全く」 「くっ、冗談だよ。無料にしてやる」  軽口を言い合う。  出入り口に向かって最後に店を振り返る。ショーケース前に立つアサギさんが視界に入って、何を言おうか少し考えた。 「明日は通常通りの勤務だぞ」  全くそんな事言って。私、次に会う時はアサギさんを忘れてるかもしれないのに。アサギさんは私が代償のことを知ってるなんて考えはこれぽっちも無いだろう。その道を選んだのは私だけど裏切るような気もして少し罪悪感が残った。でも騙してでも、今度は私がアサギさんを助けたかった。  自然と口角が上がっていく。 「アサギさん、ありがとうございます。今度はアサギさんの番です。巡り巡って、アサギさんに良い事が訪れる番ですよ」  というのが結局口から出た言葉だった。  雨が止む瞬間にアサギさんと一緒にいるのが怖くて、私は返事も聞かずに店を出た。  外に出て見れば、以外と雨は止みそうにもなくて後悔しそうになる。記憶のリミットは雨が上がるまで。  色々言えるのは最後かもしれなかった。  本当に言うだけ言って、言い逃げして良かったんだろうか。行く当てなんて無かったけど、私は店から離れる他なかった。そして私は気が付けば電車に乗っていた。
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