終末

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なぜ自分は残ったか。 それに意味があるとは思えなかった。 リウー医師もそう言っているではないか。「その男はつまり、第3の機会を掴んだというだけのこと」なのだと。三つに一つしかないとして、その一つが手に落ちて来ただけ。俺にしても、そういう事が起こっただけなのだ。全く、“その男”と殆ど同じ境遇にあるというのが笑えない。 文豪の作品に現状を重ね、メディアがやたらに騒いでいた時はまだ良かった。否、良かったと言うのは語弊がある。だがしかし、少なくともこうではなかったわけだ。 男が10年も昔から愛読している文庫本は、飛ぶように売れた。我も我もと普段は読みもしない本を手に取って、少しでも学ぶところはあったのだろうか。それを読む事が予防注射であるかのように活字と鼻っ面を突き合わせ、何を得たのだろう。尋ねるべき相手はどこを探してもいないが、いないからこそ尋ねたかった。 再度水筒に口を付け、男は立ち上がった。 ——もう、いいんじゃないか。 正直なところだった。 混乱が始まって1年で作られた生存者をカウントするシステムは、男の端末で見る限り寂しく「1」の一文字を表示するのみである。「際限なく続く敗北」とわかっていながら挑み続け、最後の最後で明確な敗北を一身に引き受けた。すべき事は最早残っていない。自分もここで終わりにするがいい。 ただ、少し悼もう。 それで終いだ。 男は先刻したように、上向いて目を閉じた。こういった場合に脳裏を過るのだろうと勝手に想像していたものは何も見えなかった。心なしか、焦げ付く陽が優しくなったように感じる。気のせいだろうか。気のせいなのだろう。それでいい。 手首に端末の震動が伝わる。電子音が鳴った。5分だ。 拳銃を取り出し、バケツの上に座り直した。顎下に押し当てる。一番好きだった映画の主人公の最期と同じ格好である。あれはマイナーな作品だったが、しかし、良い作品だった。その傑作を今思い出すとは、俺の頭も捨てたものではない。 唇の端を僅かに持ち上げ、男は人差し指に力を込めた。
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