素敵な考え方をする店長さん

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素敵な考え方をする店長さん

CLOVERの入り口は、看板と柱にシロツメクサと四つ葉のクローバーがデザインしてあって、とっても可愛い感じだった。 「店長に紹介するよ」 和希は美穂を店内に招き入れて言った。 「坂上店長~。売り場正社員希望の和泉 美穂さんです」 偶然にも、美穂の着ているツインニットと、坂上店長のパティシエ服の色は似ていた。きれいなペールグリーンのパティシエ服だ。坂上店長は、40代半ばだろうか。 「初めまして。店長の坂上 奈津美と申します。急に、売り場社員が1人辞めたから困っていたの」 丁寧に名刺を差し出しながら言う。 「お名刺、頂戴します。和泉 美穂と申します。これが、履歴書です」 「とりあえず、イートインスペースで話しましょうか。こちらへどうぞ」 3人で移動する。白を基調とした、さわやかなイートインスペースだ。机の端には、シロツメクサと四つ葉のクローバーが彫ってある。置いてあるペーパーナプキンも同じようなエンボスが入っている。 「突然だけど、シロツメクサの花言葉をご存知?」 坂上店長が、美穂に問いかける。 「幸運、でしょうか」 「そうね、それが有名かもね。あとは、私を想って、約束、怖いものでは、復讐、なんてものもあるのよ」 「えっ、復讐・・・なんででしょうね」 あんなに可憐な花と葉なのに、そんな怖い花言葉があるなんて。 「分からないけど・・・もしかしたら、私を想って、という約束を破られた人がつけたのかもね」 「悲しいですね。もし、そんなことがあったなら」 やりきれない。ちょっと前に自分の身に起こったことを、美穂は思い返していた。そんな花言葉があると知っているのに、なぜ、敢えて、店名をCLOVERにしたのだろう。 「でもね。復讐って、哀しいお返しでしょう?本人は、そんなことしたくなかったと思うの。ちゃんとしたステキなお返しをしたかったと。愛してくれたことがあったけど、何かの理由で去って行った人。そんな人にしたいのは、復讐?そうじゃなく、大切な思い出をくれた感謝、お礼じゃないかしら」 美穂は、心の中を見透かされているような気がした。今でも、拓也を憎む気持ちはみじんも出てこない。ただ、素敵な体験を沢山させてくれた感謝だけだ。 「そうですよね。だから、敢えて、店名をCLOVERにしたんですか?」 坂上店長は、にこっと笑った。 「そうなの。お別れにケーキを贈る人もいるからね。パンフには、そういう意味合いの説明書きもしてあるんだけど」 「店長、素敵です。惚れました!」 美穂は思わず言っていた。 「え・・・あ、ありがとう。」 顔をポッと赤くする姿から、もしかしたら、最初の印象より少し年齢が下なのかもな、と美穂は思った。 「和泉さんは、ケーキ販売の経験はないのよね?カフェも併設されてるけど、お客さんご自身で持って行ってもらうスタイルだから」 「ケーキ販売の経験はないのですが・・・子供のころ、ケーキ屋さんになりたくて。その想いがもどってきたというか・・・」 「ケーキ製造をしたいなら、製菓学校で勉強してもらう必要があるけど・・・」 「いえ、販売でオッケイです。ケーキに囲まれて働ければ幸せです」 坂上店長は、にっこりして言った。 「了解。明日は定休日だから、明後日から、働ける?」 「はいっ」 「じゃあ、明後日の火曜日、9時半に出勤してね。アクセサリーはつけないで」 美穂は、はっ、とイヤリングとネックレスのことを思い立った。 「すみません・・・」 「いいのよ、今日は、デートだったんでしょ?」 との言葉に、美穂と和希は真っ赤になった。
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