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「間もなく電車は到着いたします」
(やばい、やばいどうしよう・・・・・・!)
慣れないヒールで私は走る走る。あと五分で乗り換えの電車が発車してしまう。ああもうどうして私はこうなんだ。なんで面接当日におなかを壊して、ジュースをぶちまけて、アイラインを失敗して、家に忘れ物をして、乗り換えを間違えて、そして今必死で走って・・・・・・どんくさい私が本当に嫌になる。それでも走るしかなかった。つま先が痛くて、何度も転びそうになるのを必死に持ちこたえる。この階段を上がればホームだ。早く早く!
「次の電車は東田中普通、町田行き・・・・・・」
やっと掴んだ最終面接。もう数え切れないくらい私は採用に落ちていた。お祈りを申し上げられるたびに、社会に私なんか必要ないと、烙印を押されている気分だった。でも自分でもわかる。私なんかどんな会社でも採らないって。こんなどんくさくて要領の悪い私なんか・・・・・・ああ駄目だ、こういうネガティブなこと考えてるから面接でも自信のなさが出て落ちるんだって、カウンセラーの人に言われたのに。今日こそは嘘でもいいから自信たっぷりに振る舞わなきゃ。本当の私なんて、誰も欲しがらないんだから。
「駆け込み乗車はおやめください」
「ま、まって!」
運悪く私はホーム一番端の階段を上がっていて、電車の扉から遠かった。私の叫びも空しく扉が閉まる。どうしよう、あれに乗れないと面接に間に合わない。面接に遅刻するなんて、ただでさえ駄目な私なのに、きっとやる気がないんだって思われて落とされてしまう。そんなことない、私は御社を志望してるんです。ネットの口コミでブラック企業と書かれていても、一次二次の面接で圧迫面接されたとしても、すれ違う社内の人みんな顔色が悪くても、私を必要としてくれたのは、御社だけだったから。内定をもらって、心配かけてるお母さんに安心させてあげたい。ああ、だから閉まらないで!
「町田行き、発車いたします」
どうしたら電車が止まるの! お願い、止まって!
私の足は、一目散に電車に駆け寄る。そして私は、その一歩を踏み出した。
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