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うるさく響く耳鳴りのような蝉の声。
吸い込まれてしまいそうな青い空に、大きく描かれた入道雲。
そして風に舞う、長い黒髪とほかの女子生徒より少しだけ長いスカート。
僕の目の前に、相沢さんはいた。
「な、なんで……」
彼女は驚いたように固まっている。
いや、正確には、表情は固まっているが、手も足も声も、怯えたように震えていた。
「僕らはただのクラスメイトだよ。止める権利も、理由もない」
今度は本当にポカンと固まってしまった彼女に、「だけど」と僕は続けた。
「僕は相沢さんが死んだら悲しむし、相沢さんが悩んでるなら話くらいは聞いてやってもいいと思う」
彼女は震える手で柵を強く掴んだ。
「それでもそこから飛び降りたいんだったら、好きにすればいいよ。僕は止めない」
彼女の瞳の奥が、キラリと光った。
「どうする? 死にたいの、死にたくないの?」
僕は最後のひと押しだとでもいうように、彼女の目を見つめ、強く問う。
「私は……」
彼女は俯いた。
「やっぱり嫌、死にたくない……お願い、助けて」
そして流れる涙もそのままに、僕の目を見てはっきりとそう言った。
それが、今まで完璧な優等生という皮を被って生きてきた少女が、初めて見せた本当の姿だった。
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