秘密の思い出

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「そう……死にたくないんだったら、さっさと戻っておいで」  僕が差し出した手をしっかりと握った彼女は、柵を越えてあっという間にこちら側に降り立った。 「もう……神谷くんって、思いのほか意地悪なんだね」  彼女は涙でぐちゃぐちゃになった顔で、いつものように柔らかく笑う。 「勝手に優しいやつだと勘違いしてたのは相沢さんなんだから、急にそんなこと言われても困るよ」  僕がそう返すと、相沢さんは「あはは」と困ったように笑う。 「でもさ、意地悪だけど、すっごく優しいね。ありがとう」  憑き物が落ちたような、すっきりとした笑顔。 「……別に優しくなんかないし、お礼を言われる筋合いはないよ。思ったことを言っただけだから」  そう素っ気なく返すのがやっとで、僕は目を逸らした。 「それにしてもさ」  彼女は屋上のドアに向かいながら、振り返って少し後ろを歩く僕を見た。 「屋上に2人きりって、なんだかイケナイことをしてるみたいだったね」  そう言っていたずらっぽく笑う彼女に、何故か心臓が早鐘を打ち始めた。  その正体に気づくのは、多分もう少し先の話。
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