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「あれ、結婚は校則違反でしたっけ?」
「い、いえ、それはなかったかと」
「じゃあ問題ないですね! 席までご案内します」
店長は明るい笑顔と大きな声でこの場を乗り切った。予想外の答えに呆然とする先生を案内する。先生は早速足袋の足をすねこすりにこすられ満足そう。
私達は裏で話をする。
「なんでかばうようなこと言ったんです?」
「バイト禁止なのは俺も卒業生で知ってたし、でも一人やめられると痛いしで雇っていたのなら同罪かと思って。……まあ女子高校生にそういう嘘つくのも気持ち悪いな」
「なんで卒業生だって言わなかったんです?」
「多分君と同い年に弟がいて、弟と仲悪くて、弟は俺の話題出されるだけでいらつくから内緒にしといた方がいいと思って」
「なんで結婚……?」
「渡辺先生、学生結婚したらしいから結婚に関しては文句言わないと思ったんだよ。念の為、懐っこいすねこすりを仕掛けて黙ってもらう」
疑問がなんとかまとまっていく。店長は助けようとしてくれただけ。深い意味はない。
渡辺先生はすねこすりに囲まれ嬉しそう。あのゆるみっぷりなら私を停学にしたりはしないだろう。
「あと、朝日奈さんがこれでカフェに関われないというのは困ると思ったんだ。メンズデーのこと、言い出したのは君なんだし、夏だけでも関わって欲しい」
「そうでした、メンズデー。せっかく提案したんだから成功するとこ見たいです」
「だろ?」
かなり無理はある嘘だったが、これでアルバイトは継続できる。その代わりの結婚を前提にしたお付き合い……いややっぱり恥ずかしいな。そこまでしなきゃいけなかったのか。心配ないとはいえ、これから私が誰か学校の男子と付き合えば嘘だとバレてしまうわけだし。渡辺先生もきっとまた来るだろう。
でも付き合うふりをするのは嫌ではない。最初にバイト禁止なのにバイトしたいと言ったのは私だ。
夏休みだけその嘘を抱えて、このすねこすりカフェで働こう。このカフェでの出来事はきっと、私のひと夏の思い出になる。
END
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