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最近、その資格を持つ妖怪がすねこすりカフェというのを開きだしたらしい。飲み物を注文して運が良ければすねこすりが脛をこすってくれるというカフェ。私がバイトしたいというのも、そのすねこすりカフェが遠方にあってそれに行きたいからなんだよね。
「わぁ、この子の模様、ハートになってる。かわいすぎぃ……」
炎天下、私の脛はもふもふで暑いけれど、黒のハイソックスは毛だらけだけど、それを超えるこのときめき。はぁ、やっぱりいい。すねこすりのためならいくらでも働ける。顔がゆるゆるになる。
「すいません。そのすねこすり、うちのなんです」
声がして顔を上げるとエプロンをした男性がいた。私はゆるゆるの顔を見られたショックで固まる。
「ごめんなさい、こすってしまいましたよね? こいつ黒の靴下が大好きなので」
「いえいえ、ご褒美です!」
「ふはっ」
私が変なことを言ったからだろう。その人は吹き出した。暑い前髪からのぞく目がくしゃくしゃになっている。笑うとずいぶんと幼い。多分大学生くらい?
その人は笑っている事が申し訳なく思ったのか肩を震わせて笑っているけれど、やがてはっとしたように笑うのをやめた。
「あのっ、良かったらすねこすりカフェで働きませんか!?」
「えっ」
「うちで働くはずだった雪女がこの夏の暑さでダウンしてしまって、俺一人では厳しくて、こうして一匹カフェから逃げ出されるほどで……」
ああ、だからめったに見ないすねこすりがこんなところにいたのか。そして学校近くにすねこすりカフェができるなんて初耳だ。そのカフェではたらかないかと誘われている。夏限定のおいしいバイトが、向こうから転がりこんできた。
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