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「っと、そろそろ渡辺様がいらっしゃる時間だな」
「私お迎え行ってきますね」
すねこすりを踏まないように玄関へ向かう。そして窓からお客様がいるのを確認して、すねこすりが脱走しないよう扉をあけた。
「いらっしゃいませ!」
笑顔で元気よく挨拶をしたけれど、そのまま固まる。渡辺様とは私の知り合いの渡辺様だったからだ。
「あなた、二年の朝日奈さんよね?」
厳しい英語の先生である渡辺様、もとい渡辺先生。ありふれた名字だから予約表の名字だけでは気付けなかった。そして私は思い出す、うちの校則、バイト禁止を。学校の先生に、私がここで働いている所が見つかってしまった。
「朝日奈さん、まさかあなた、ここでアルバイトをしていないわよね。こんないかがわしい、接触を前提とした飲食店で!」
「せ、接触するのはすねこすりだしいかがわしくないです!」
まずい、先生にバレた。その事で頭はフル開店する。反省文か、もしかしたら停学か。そういやバイトで停学になった子もいたっけ。でもそれはいかがわしいお店だったからで、普通の飲食店なら反省文か。
でも、どっちにしろここでは働けなくなってしまう。こんなにすねこすりに囲まれて、店長も優しくて、メンズデーだってこれからできるかもしれないってところなのに。
「せ、先生こそどうしたんてす、こんなカフェに」
「が、学校近くにカフェができたと聞いて、ふらっと立ち寄ってみたのです」
先生、ここは予約制ですよー!
とはつっこまない。とりあえず渡辺先生は相当のすねこすり好きで、それを恥ずかしいのか生徒に知られまいとしているようだ。お互い挙動不審だ。
このカフェでは玄関で靴を脱いでもらうため、先生の足元を見る。先生の服装はスーツで、ストッキングの足に足袋を履いていた。
つまりこの人はすねこすりガチ勢だ。すねこすりは長生きな個体もいるので、和装の時代に生きたものもいる。そしてすねこすりが重視するのは靴下。すねこすり視点からしてみれば『わー、足袋だーなつかしー最近見ないよねーこすっちゃおー』となって、足袋にすり寄る。つまり足袋は対老すねこすりモテアイテム。
きっと渡辺先生はモテたくて足袋をわざわざ履いて来たのだ。
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