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「朝日奈さん、うちの学校はバイト禁止だって知ってるわね?」
はい来たお叱りの言葉。先生はガチ勢だから、私のバイトは目をつむってくれると思っていた。しかしツンデレガチ勢なので私に知られたくないと重い処罰を与えるかもしれない。
ここで私はある事を思い出す。
「か、家業の手伝いです」
こういう時の救いの呪文。家業の手伝いならバイトしても許される。ただしうちの家業じゃないから嘘である。
しかし誤魔化せそうなところ、裏から様子を見に店長がやってきた。
「何かあったのか?」
店長は心配してやってきたんだろうけど、ややこしい時にやってきたものだ。
「鬼龍君?」
「渡辺先生? あぁ、お久しぶりですー」
「本当久しぶりね。ということは、もしかしてここはあなたのお店?」
「はい。大学在籍中に準備して、卒業してから始めました」
終わった。この二人の会話でいろんな事がわかって私にとどめが刺されてしまう。
まずは店長がうちの学校のOBであること。私の制服姿を見たくせに、店長は学校名に触れなかった。あの真面目に優しい店長が校則について言わなかったのは意外だったけど。でも卒業生だってことぐらい言っておけばよかったのに。
そして店長と先生が知り合いで、この店が店長のものだと知られる。鬼である店長と人である私が親戚だとは思うはずがなく、家業の手伝いという嘘がバレてしまう。
終わった。嘘もついては本当に救いがない。これから先生に詰められる。
「ところで彼女のバイトのことだけど、」
「ああ、それは家業の手伝いですよ」
けれど意外なことに店長は柔らかな笑顔で私のついた嘘、家業の手伝い説を推した。
いや、鬼と人で家族も親戚も怪しいのに。
「彼女とは結婚を前提にお付き合いしています」
「ええっ?」
「だからいつか手伝ってもらうなら今からということで、家業の手伝いとして働いてもらっていたんですけど、だめだったのでしょうか?」
信じられないような嘘を店長がついた。結婚相手の仕事の手伝い。それもまぁ家業の手伝いというだろう。でも私達、付き合ってもいない。
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