恐妻家

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俺はある居酒屋の入り口に立っている。 懐かしい暖簾。実に三年ぶりだ。 そして、今から会うあの人も。 きっとあの頃と変わらぬ、優し気な瞳に出会えることだろう。 引き戸をガラガラと開けると威勢の良い大将のいらっしゃいと、奥の座敷で微笑みながら手招きするその人は相変わらずキチンとした身なりでそれでいて、気取らない気さくな雰囲気で座っていた。 「やあ、ひさしぶり。元気だったか?」 席に着くと快活な声でその人は声を掛けて来た。 「部長、お久しぶりです。僕は元気ですよ。」 俺は靴を脱いでその人の正面に座る。 「そうか?お前、ちょっと痩せたんじゃないか?」 「そんなことはないですよ。たぶん、今日着ている服の所為じゃないですかね?」 「そうか、気のせいだな。俺なんて、もうそんなスリムな服なんて、縁はないからな。」 「そんなことはないですよ、部長は標準体型でしょう?」 「こう見えても、ここらへんの肉は誤魔化せないよ。ビール腹ってやつか?あはは。」 相変わらず、優しい部長。 俺はこの人のおかげで今、ここに居ることができた。
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