恐妻家

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 三年前、俺は仕事で大失態を犯し、会社に多大な損害を与えた。本来であれば、クビになってもおかしくない失敗である。それを必死に庇ってくれたのが、この大沢部長である。大沢部長が一緒に懸命に誤ってくれて、俺をクビにしないように掛け合ってくれたおかげで俺は左遷で済んだのだ。  支社で俺は、もう二度と同じ過ちを犯さないように、死に物狂いで頑張ってようやく本社にカムバックすることができたのだ。 「それにしても部長とお会いするのは三年ぶりですね。あの時、部長が僕を庇ってくれなかったら、今の僕はありませんから。本当にありがとうございました。」 俺が頭を下げると、部長は顔の前で手をイヤイヤと振りながら言う。 「俺はただ、優秀な人材を失うのは、会社にとっての損失だと考えただけのことだよ。たった一度の失敗で若い芽を摘むのはあまりに惜しいじゃないか。支社での活躍、本社の方でも聞いたぞ。お前の努力の賜物だよ。まあ、堅苦しい話はこれくらいにしようじゃないか。」 そう部長は相好を崩した。そして、俺の方を興味深そうに覗き込むと 「それにしても、えらい垢抜けちゃったなぁ、お前。向こうで彼女でもできたか?」 さすが勘がいい。部長は相変わらず洞察力が鋭い。 「ええ、なんとか。」 「そうか!それはおめでとう。で?結婚はいつなんだ?」 「まだそんな段階ではないですよー。」 俺は照れくさくて頭を掻く。 「いやいや、お前もめでたくこちらでは係長になるんだ。そろそろ身を固めたほうがいいんじゃないか?」 「そうですねえ。僕にそんな甲斐性があれば・・・。」 「いやいや、十分だろう。言っておくが、結婚は最初が肝心だからな。とりあえず、生、頼むか。」 「ええ、すみませーん、こっちこっち。えーっと、生二つお願いしまーす。あと枝豆と串揚げ盛り合わせも。」
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