恐妻家

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「妻はね、リモコンの位置も、タンスの中も全て管理していてね。少しでも違う所に戻すと、すごくヒステリーを起こしていたんだよ。」 「ああ、女性ってそういうところってありますよね。僕もだらしないところを、彼女に注意されたりしますけど。」 「いや、そういうレベルじゃないな。」 部長は大してまだ飲んでもいないのに、目が座り、まるで遠くの何かを見つめているような虚ろな表情になった。 「とにかく、潔癖症でね。家に帰ると、常にすぐには入れてもらえなかった。」 「えっ?」 「まずは、呼び鈴を鳴らして、妻がドアを開けてくれるのを待つ。そして、妻は、玄関を開けると、すぐに上着を脱ぐように強要し、手には消毒液をかけられ、靴下はすぐに玄関先で脱がされて、寒い真冬でも、足にも消毒液をかけられた。」 「ま、マジですか?相当潔癖症ですね。」 「そして、手料理は、体のことを考えて、味は薄いもの。肉や魚などは、煮たり焼いたりしたもののみ。揚げ物なんて一切食べさせてはもらえなかった。だから、こんな串揚げなんて食べようものなら、烈火のごとく怒られたもんだよ。」 「へえ~、さすがにそれはキツいですね。」 「おかげで、会社の健康診断で、悪い結果なんて、ほとんど出なかったよ。」 「でも、それも愛情からですよ。やっぱり部長は、奥さんに愛されていたんですね。」 「そうだと思っていたんだ、俺も。」
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