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あんなに全速力で走った癖に、なつめは少しも息を切らせていない。
「間に合わなかったわ。電車、行っちゃった。もうっ! しのぶのせいよ!」
「はっ? 私のせい?」
なつめの台詞に、しのぶは、それから目を離して、なつめを睨み付けた。
そんなしのぶに、なつめは不機嫌顔な顔で「そうよ! しのぶがグズグズしていたからでしょ!」と怒鳴る。
しのぶは、頭に血が上るのを感じた。
抑えていたものが心の底からふつふつと湧き上がり、頭まで上って来ている……。
気付けばしのぶは、それを外へ吐き出していた。
「私のせいだって言うなら、なつめ! 聞かせてもらおうじゃない。ハムレットは面白かった?」
「へっ?」
「へっ? じゃないわよ。私との約束をキャンセルしてまで夢中で読んでいたハムレットは面白かったのかって訊いているのよ!」
夢中で読んでいた、を強調して、しのぶは言った。
「ハムレットって何よ?」
なつめはキョトンとしている。
その、なつめの様子に、しのぶは、首をガックリ落とし、わざとらしいため息を吐く。
「呆れたわね。自分が何の本を手に取ったかも分からないわけ? 見ていたのよ、図書館からずっと!」
「えっ? えっ? あっ!」
なつめの顔が青ざめる。
男の子達を追う事に夢中で、自分がどういう状況にいるか、なつめは今まで気付かないでいた。
けれど、自分に冷たい視線を送る、しのぶの姿を見て、なつめは、ようやく、約束をすっぽかして、男の子の後をつけていた事が、しのぶに、ばれた事に気気付いた。
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