第2章 日常1

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 しのぶが、そう思って顔を上げた、その瞬間、やって来たバスが、しのぶの、目の前に、乱暴な音を立てて止まった。  バスから、客が降り切ると、入り口のドアが開く。  バスを待っている客は、しのぶ一人だ。  しのぶが乗り込むと、バスは素早くドアを閉めて、走り出した。  バスに揺られながら、しのぶは、ぼんやりと、窓に流れる景色を見た。  なんの変わりも無い、町の景色。  しのぶは、その景色に溶け込んだ、ソレに、目を止めた。  しのぶの、目は、肩を並べて楽しそうに歩いている二人の女の子を見付けて、彼女達を追っていた。  しのぶと同じ制服を着た女の子達。  仲が良さげに笑い合う、その二人の姿は、数秒で窓の景色から消えた。 (なつめが、予定をキャンセルしなかったら、私だって……)  しのぶは、こっそりとため息をついた。  乗客は、しのぶの他に二人しかいない。  車内はとても静かだ。  図書館までは、十五分程かかる。  読む本も無いし、図書館に着くまで、何をして時間を潰そうかと、しのぶは悩む。  暇潰しになる物など何も無いと分かっている癖に、カバンに手を突っ込み、中を探る。 (幾ら探しても、何にも無いのよね)  しのぶは、諦めて、再び、窓の外を見た。  過ぎていく景色を、目を細めて見ながら、しのぶは、さっきの、仲良し二人組の事を思い出していた。 (あの子達、これから何処かに遊びに行く所よね、きっと。あんなに楽しそうにしちやって、二人で、馬鹿みたいに笑っちゃって……)  しのぶは、大きくため息を吐いた。  彼女達のことを羨ましく感じている自分がいる事を、しのぶは知っている。
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