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「あ……そ、それは」
「人間の寿命はまだまだ長いはず、だろ?」
「青馬、お、俺は……」
「なんだよ」
人生の中で最も嬉しいことが一気に重なり、光はうまく言葉が出てこなかった。
未熟な身に余る幸福を、噛みしめながら懸命に青馬に伝えようとした。
「嘘、みたいだ。そんな、前向きな言葉を、もらえると思ってなくて。引かれるか、お前をただ困らせるだけとばかり」
「そんなわけねえじゃん! 男とか女の前に光は一人の人間だろ。そんなこと言ったら半分馬だった俺のがよっぽど変だったし!」
「青馬は、変じゃない。ああ、俺は……まだ自分に都合のいい夢を見てるみたいだ」
「光は心配性だなあ。おまけに見かけによらずすげえ泣き虫だ!」
「お前のせいだっ……」
あはは、と快活に笑う青馬に、光は未だ涙が止まらなかった。
「でも俺の髪も目の色もすっかり真っ黒になっちまってさ、なんかすげえ普通の男子中学生」
「そう言われてみれば黒くなってるな」
「今気づいたのかよ!? けっこう特徴的だと思うんだけどなー」
「いや、俺は別に見た目はなんでも。青馬は青馬だろ」
いつか青馬が光に贈ったのと同じ言葉を聞くと、青馬は照れくさそうに笑った。
「あ、でも走るのはまだ速かったんだよ! もうずいぶん体力も回復したしそろそろ学校にも行けると思う!」
「そうか。俺も、いろいろ青馬に話したいことがある」
「マジで? 聞く聞く! とりあえず寒みいから家に戻ろうぜ!」
「おい! 青馬」
突然光の腕を掴み、走り出す青馬。
「あ、そうだ光」
「なんだ」
「自分の夢はちゃんと自分で叶えっから。光を俺の代わりになんか、させねえからな」
青馬に引かれた光の左手首に揺れるミサンガ。もうそれに願いを託すことはないだろう。
自分より小さくなによりたくましいその背中を、光はずっと眺めていたいと思った。
馬としては多数の妻と子を持った青馬は、人としてはたった一人の光と一生を添い遂げた。
――END――
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