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馬になると言葉が使えないため、一体どうやりすごせばいいかと思案をする青馬。
光はしばらく目の前でものすごい存在感を放つ雄馬を凝視していたが、その身体や瞳が青みがかっていることと、ベッドの傍らに破れた制服が落ちていることに気がついた。
それらが指し示す一つの答えを、光は探るように声にする。
「……まさか……まさかと思うけど……まき、みち……?」
光の口から出た言葉に感激した青馬は「そうだ、その通りだ!」という気持ちをどうしても伝えたくなった。
「ヒヒーン!!」
光が僅かに肩を振動させ、切れ長の目を見開く。
――あっ、やべ!
青馬がそう思った時には遅かった。
興奮してつい吠えてしまった青馬の声に、反応した誰かが保健室に入ってきたのだ。
焦る青馬を前に、すぐさま冷静さを取り戻した光が自身の口に人差し指を当て「静かに」のポーズをする。そして中の様子が見えないように素早くカーテンから出た。
「あら、日暮くんじゃない、どうしたの?」
光の前にいたのは女性の保健医だった。
どうやらすぐ近くの職員室から急いで戻ってきたらしい。
「少し体調が悪くて……ベッドを借りていいですか?」
「あら大丈夫? それはもちろんかまわないんだけど、さっきなんだかすごい音? 鳴き声のようなものが聞こえなかった?」
「……ああ、近くの牧場からじゃないですか。俺にはそんなに大きく聞こえませんでしたけど……」
光は背後にある薄茶色のカーテンを後ろ手に握りしめながら、素知らぬ顔で答えた。
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