4.伝説の駿馬

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 難関をくぐり抜け校舎を出ると、青馬は安堵の息を漏らしている光の前に出て首を斜め上にクイクイと動かした。最初はその仕草の意味がわからなかった光だったが、よく考えると理解できた。 「……乗れって言ってるのか?」  光の質問に青馬は嬉しそうに頭を縦に振る。 「でも俺、馬に乗ったことないぞ」  「問題なし!」と言わんばかりに身体を低くして光が乗りやすいようにする青馬。そこまでされては乗らないわけにいかないと思った光は、潔く青馬の背に跨った。すると青馬は右前足で自身の首を叩いた。 「首にしがみつけってことか? ……わかった。やってみる」  手綱がないため光に首にしがみつけと示した青馬は、光の準備ができるとゆっくりと歩む速度を上げた。  光にとっては初めての乗馬であったが、身体を預けているのが青馬だということと、安定感のあるどっしりとした馬の肉体が恐怖心を取り払った。  乗っただけでも驚くほど視界が高くなるのに、スピードを増すたび見違える世界に光は素晴らしい興奮を覚えた。  ――馬ってこんなに速いのか。馬の世界って……こんなに気持ちがいいのか。  青馬は光の安全を考え適度なスピードで走っていたが、爽快感を味わわせるには十分であった。北海道の広大な地を光を乗せ駆け抜けてゆく青馬。馬や牛たちに見守られるのどかな草原、美しい春の緑に包まれた自然の中は、駿馬(しゅんめ)が走るにはあまりにも相応しかった。
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