5.暗い過去

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「でも競馬があるのは昼間じゃないのか?」 「お、やっぱりそこ気づいちゃう? そうそう。俺五歳で競走馬引退するまで朝七時から夜七時まで馬、夜七時から朝七時まで人間だったんだよな。で、今はその逆!」 「そんな風に変化する時間帯? が変わるものなのか」 「うーん、正直他の半馬のことはよくわかんねえんだよな。あ、半馬って俺みたいな体質の人のことな。父ちゃんとかじいちゃんもなる時間とか長さも違ったらしいし、人によるみてえ」  話している間も青馬はどんどん食事を進めご飯のおかわりをする。お椀に白米を盛り戻ってきた母の静葉は、さっきまでの明るさとは打って変わって、神妙な顔で口を開いた。 「うちはね、昔から続く馬主で、調教師もしている家系なのよ。馬に丈夫な子を生ませ強くて速い子に育てて競走馬にする……。そんな家にある日ある時間帯になると馬に変わる人間の子供が生まれたらしいわ。理由なんてわかるはずがないけれど、泣く泣く競走馬にされた馬たちの呪いだと言う人もいたとか。昔は隠す術もなく晒し者にされたり、ひどければ命を奪われることもあったそうよ。……誰にも迷惑なんかかけてない、ただ生きていただけなのにね」  光は手を止め、語り手である彼女から目を逸らさず静かに聞いていた。 「以来ご先祖様たちは必死に半馬であることを隠してきたみたい。なぜか半馬は男性にしか遺伝しないみたいで、女性の半馬はいないのよ。だから青馬の妹も馬になったことはないの」  静葉はテーブルに置いた湯呑みを持つと乾いた唇を潤すように、一度だけ軽く傾けた。
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