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6.雲のない青空のように。
それからしばらく時間が経ち、二人は青馬の家から少し歩いた先にある野原に座っていた。見晴らしのいい平地は夕焼けに照らされ鮮やかなオレンジ色に染まっている。
「悪いな日暮、遅くまで引き留めちまって……結局夕飯まで一緒にさせちまってよ。サッカーの練習とか大丈夫だったか?」
「いや、かまわない。今朝監督に身体を休めろと言われたところだったし。俺の方こそずいぶんご馳走になってしまった」
「ほんとは俺が途中で帰れるようにすればよかったんだけどな。でも俺の秘密知ってる友達できたのなんて初めてだったからさ。なんか嬉しくなっちまって……母ちゃんのこと言えねえよな」
照れくさそうに笑う青馬を見て光は複雑な心境になる。先ほど静葉に聞いた話が頭から離れず、ずっと胸に引っかかっていたからだ。
なにか言いたげに、しかし言わずに視線を逸らす光に、青馬は彼の優しさを感じていた。
「そりゃあ気になるよな、あそこまで言われちゃあな。俺はもう日暮に知られて困るようなことはねえんだけどさ、あのまま母ちゃんに話続けさせてたら泣き出しそうだったから止めた。日暮も……あまり深く聞きすぎたら重荷になるんじゃねえかなとも思ったし」
なぜ、一番辛いはずの青馬が周りにばかり気を使っているのか。俺の心配なんかいらない。そう言いたいのに光はうまく言葉が出てこなかった。
「……嫌に、ならないのか」
「え、なにが?」
「人間を……嫌いにならないのか。お前と同じ半馬が、理不尽な扱いを受けたり……なにも迷惑なんかかけてないのに、おかしいだろ、そんなの。今だって……人間は馬を食ったりもしてる。俺だったら――」
たぶん、耐えられない。
そう口にする代わりに光は立てた片膝に置いていた手を強く握りしめた。
しかし、青馬からの答えはとてもシンプルなものだった。
「ならねえよ!」
暗い空気を一瞬にして払拭する青馬の一言に、光は思わずその顔を見た。
青馬はいつも学校にいる時と変わらず穏やかに微笑んでいた。
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