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「確かに昔ひでえことをした奴らは許せねえよ、大嫌いだ。でもそいつらが悪い奴らだからって人間がみんなそうじゃねえだろ? 実際、日暮は俺を助けてくれた。いい人間だっているんだなって改めて思ったし」
「……けど」
「肉を食うことに関してはなにも思わねえよ。うちは昔っから野菜好きだけど卵や魚は食うし、それだって命をもらってるってことに変わりねえだろ? もっと言うなら野菜だって大地の恵みが育てた命だし、人間だって自然の一部なんだからさ」
柔らかな風によそぐ青みがかった髪。
天を仰ぐ青馬の答えは光にとってあまりにできすぎであった。
光は青馬の横顔を眺めていた。
いや、見つめているといった方が正しいかもしれない。
それほどまでに夢中で次の言葉を待っていた。
再び青馬の唇が動くと同時に視線が交差すると、光の胸が小さく跳ねる。
その理由を探る術すら、この時の光は持っていなかった。
「そういえば日暮の家って養鶏場じゃなかったっけ? 誰かに聞いたことある」
「あ、ああ、うちはそうだな」
「卵ひとつずつ食う度に申し訳ないな、とか思う?」
光は少し居た堪れない気分になり、片膝に置いた手元に視線を落とした。
なぜか青馬の大きな瞳に映ってはいけないような気がした。
「それは……いや……」
「だろ? それでいいんだと思うぞ。ありがたいって気持ちは大事だけど、味の好みは人それぞれだし、自分の価値観を押しつけるつもりはねえよ」
確かに広い視野で見ればそうなるのだろうが、自分視点で物事を考えている光からすれば青馬の意見は理解はできても納得はできなかった。光だけではない、思春期真っ盛りの中学生男子が自身のことで精一杯になるのは至極当然のことであった。
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