1.半馬の少年

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 遮るものがなにもない高台の野原、青馬は清涼な空気を胸いっぱいに吸い込みながら、緩やかな坂道を下る。  そして小さな学校の三年一組の教室に着くと、ドアを勢いよく開けて中に飛び込んだ。 「よーし、セーーフ! ……って言っても誰もいねえんだけどなー!」  まだ時刻は七時五十分。  学校のホームルームが始まるのが八時半なのでまだ三十分以上時間があった。早い生徒でも八時十分ほどから来始めるため今の教室は青馬一人しかいない。  青馬は八時前には登校することを決めているため、先ほどセーフという言葉が出たのである。いつも朝一に来ては窓際の席に座りぼんやりする。それは青馬が馬である自身から、人間である自身に切り替えるための大切な時間であった。  青馬は自分の席である一番後ろの窓際の席に着くと、片肘をつきながら外を眺めた。校舎の二階から見える校庭ではサッカー部が朝練に励んでいた。 「おお、毎朝精が出ますな」  少し開いた窓から入る春風が柔らかな髪を優しく揺らすと、青馬は気持ちよくなりうーん、と大きく伸びをした。  そこで、まだ八時になったばかりなのに教室のドアが開く音がする。  入ってきたのは薄茶色の少し長い髪に鋭い目つきをした少年だった。
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