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「馬がいるじゃん! へえー、ここの動物園初めて来たけど牝馬は可愛い子揃いだな!」
「可愛いとか、可愛くないとかがあるのか……?」
動物は大体同じような顔つきに見える光は、首を傾げながら青馬の後をついて歩く。
「人間だって犬猫の見た目の好みとかあるだろ? それと同じ。逆も一緒」
「……そういうもんか」
「ヒヒン、ヒ、ヒィィン」
「――?」
「ヒヒ、ヒヒン、ヒヒヒ」
「ちょっと待て青馬、なにやってる?」
白い柵を手で掴み、馬の鳴き声を真似し始めた青馬に光はギョッとする。すると青馬のその声に反応するように、近くにいた馬が寄ってきた。
柵越しに見つめ合う、一人と一頭。
青馬が「ヒヒヒン、ヒヒィン」と声を出せば、応じるように似た音を漏らす牝馬。
人間の言葉に訳すと青馬がまず「近くで見るとますます美しいね」と彼女を褒めた。すると牝馬が「あら、あなたもとっても素敵だわ」と少し恥じらいながら返す。それに対しすかさず「ぜひ僕の子供を生んでくれないか」とアピールすれば「うふふ、考えておくわ」と前向きな答えが来た。
馬たちは本能的に青馬の正体を悟っていた。
優秀な雄に誘われて嫌な気がしないのは馬も人間も同じかもしれない。
そんな場面を、光は黙って見守っていた。
異様な光景ではあったが、光にはなにが行われているかなんとなくわかった。青馬が馬語で馬と会話しているということが。もちろん光には詳しい内容はまったく理解不能だったが。
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