71人が本棚に入れています
本棚に追加
「こら響! こういう時に出ていっちゃいけないって言ってるでしょ!」
「いいや橙子、言わせてくれ」
後を追う橙子の制止も聞かず、響は黒縁メガネのブリッジを人差し指で忙しなく上げながら続ける。
「日暮、その言い方はあんまりではないか!」
「……関係ないだろ」
「お前が適切な対応をしていたら俺もしゃしゃり出なかった! ロッカーの後ろに隠れたままそっとフェードアウトしていただろう! しかし、なんだ今の返事の仕方は? 己の気持ちを相手に伝えるということが、どれだけ勇気のいることか! この俺でさえ橙子に告白する時全身の震えと汗が止まらなかったんだぞ! なのにそれを……」
必死に訴える響に、光は心底面倒だといった様子で顔を背けていた。
「だったら好きでもないのに付き合えって言うのか」
「そんなことを言ってるんじゃない! 人には好みがある。それはどうしようもないことだ。だが一言礼を言うなり、優しい断り方というものがあるだろう?」
響の声は届くどころか、光の苛立ちを募らせるだけであった。
「どうして嬉しいこともされていないのに礼を言わなきゃならない? 言い方に関係なく拒否は拒否だろ、変わりない」
「日暮……! お前という奴は……」
「ま、待て待て二人とも! 女の子が困ってるから!」
響の剣幕に圧倒され傍観者に徹していた青馬が、ようやく我に返り彼らの間に入った。
「あ、あの、ご、ごめんなさい。私のせいでこんな……ごめんなさい!」
女生徒は書いた手紙を握りしめたまま泣きながら走り去っていった。
しかし二人の言い合いは収まらない。
最初のコメントを投稿しよう!