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9.光
光は養鶏場の一人息子として生まれ、両親の愛情を受けてスクスクと成長した。彼は引っ込み思案で、人が多い場所が苦手であり、学校に行ってもなかなか友人ができない性格であった。周りより背が高く顔が綺麗だったため異性はなにも言わずとも寄ってきたが、同性はそういうわけにはいかなかった。
なかなか親しい相手ができないのを心配した両親が、いいきっかけにならないかと光に与えたのがサッカーボールだった。光はすぐにサッカーに夢中になった。悪いように言えばサッカーに逃げた、とも言えなくはない。光は学校が終わるといつも一人でサッカーボールを触って時間を潰した。そうしている間にサッカーがとてもうまくなったのである。
ある体育の授業でサッカーをした時、光の足捌きにクラスメイトが驚き、それがきっかけで友達も増えていった。両親は光を少年サッカーのクラブチームに所属させ、長所を伸ばす手助けをした。それからは光も楽しく学校やクラブに通うようになり、問題はなくなったかのように見えた。しかしそれは小学生までの話だった。
中学に上がると、男子も女子も異性を気にし始め、話題には必ずその内容が出てくる。光はそれについていけなかった。
「なあなあ、あのクラスの女子可愛くない?」
「アイドルのあの子がタイプ」
「早く彼女欲しいなあ」
「なあ、日暮はどんな子が好きなんだよ?」
そんな話を一切楽しいと思えなかった光は、素っ気ない返事を繰り返した。恋の話だけならまだよかったものの、性的な話題となると光は途端に嫌な顔をしその場から離れた。そうして光が思うがままに行動した結果、気づけばそばには誰もいなくなっていた。
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