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その頃、同じく帰宅した青馬は自分の部屋のベッドに腰を下ろしていた。
着替えもせず鞄を床に放置し、ドアを閉めるのも忘れていた。
「わっ! びっくりした、お兄ちゃん帰ってたの?」
先に帰宅していた凪葉が青馬の姿を認めて驚きの声を上げた。
廊下を通り過ぎる際に開いていたドアから中の様子が見えたのだ。
青馬はいつも家に着くと「たっだいまー!」と大きな声で知らせるのだが、今日に限ってはそれがなかった。そのため家族は青馬が帰ってきたことに気づいていなかった。
「ああ、悪ぃ……ちょっとぼうっとしてて」
珍しく心ここにあらずの兄を見た妹は、ドアの隙間からひょこっと顔を覗かせる。
ボブヘアーの前髪は花飾りのついたピンで留められていた。
「どうしたの? もしかして日暮さんと喧嘩したとか?」
ドクン、青馬の心臓が反応を示す。
女の勘って怖いなぁ、と思いながら「そういうわけじゃねえけど」と苦笑いを浮かべた。
光はサッカーの練習で忙しいが、何度か部活帰りに青馬の家で晩御飯を一緒にしたことがあるため、凪葉もすっかり顔見知りになった。
夜に馬舎に寄ってくれていることも話してあるので、光は青馬の家族にとっても特別な存在になりつつあった。
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