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末路
都内の某ビジネスホテルの一角。
警察庁広域捜査課の飯尾刑事と松岡刑事が十五階の奥の角部屋を囲んでいた。
「須藤智也、加賀美奈緒子、居るのは分かっている。フロントからマスターキーを預かった。もう逃げられないぞ。五分だけ時間をやる。大人しく投降しろ」
須賀智也と加賀美奈緒子の両名は共謀して奈緒子の内縁の夫である赤坂満継と、奈緒子の弟である加賀美悟を殺害した容疑で追われ、三ヶ月半に及ぶ逃亡生活を送っていた。
赤坂は隣県にある別荘で愛人の一人だった秘書が発見した。悟は郊外の奥、某県堺の山中で遺体の一部が発見され、警察犬の導入で残りを見つけた。二つの遺体には共通点があり、死因は共に窒息死。首元にはロープで絞められた痕が残っており、形状からして同一の物が用いられていた。
警察は行方不明になっていた奈緒子と殺害された悟の親友である智也、両名を重要参考人として捜索。赤坂の遺体から奈緒子と智也の指紋が検出され、殺人容疑に切り替わった。
二人の目撃情報は幾多にわたり、捜査当時は第三の被害者になりうるとされていた智也が奈緒子とみられる華奢な細い女性と駅を歩く姿を目にした者が多くいた。その事から二人が共謀して犯行に及んだ線が有力となり、指紋の検出により説は確定。両名を指名手配する運びとなった。
二人は近畿地方から九州までを鉄道に沿って常に移動していた。
地域が広く跨る為、警察庁は広域捜査官を構成、智也と奈緒子は広大な捜査網により、
ついに追い詰められたのだった。
「智也くん……」
奈緒子が不安気な眼差しで智也を見つめていた。
「ここまでみたいだ。すまない」
智也が少し自信なさ気な語感で辿々しく話すと奈緒子は寄り添って背中を優しくさすった。
「いいの。ありがとう。私と、弟のために」
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