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2 僕
学校の裏、心臓破りの坂を登り切ると見えてくる山を超えたもっと先、そこにひっそりと佇む光沢を失った黒ずんだ白色に塗られた廃館に行こうと提案したのは僕だった。
武井が喜んで首を振る姿は容易に想像できた。結果そうなった。武井は好奇心の化け物だ。気になったことは周りが引くくらいに調べないと気に食わない。世界中の全てのことを知りたい、それは武井の口癖だった。
「そこには俺の知らないことがあるかもしれない」
「そうだね。もしかしたらお化けとかもいるかも」
「それは楽しみだな」
「あの廃館は結構古いから期待しておいて損はないと思うよ」
武井との交渉はすぐに終わった。もう少し伝えておきたいことがあったが、途中で担任の和田先生に声をかけられたので中断した。秘密の作戦会議をするにはもう少し場所を考えるべきだった。
問題は姫野だった。彼女は子供じみた話を嫌った。同級生よりも大人びていて、いつも冷めている。でも僕達は三人揃ってこそのグループだ。欠けることはありえない。
僕は交渉の前に秘密兵器を用意した。二十年くらい前に流行った目玉が飛び出たネズミのぬいぐるみ。姫野は柄にもなく時代に取り残されたそのぬいぐるみを好んでいた。
僕はそのぬいぐるみを背後に隠して姫野の前に立った。
「そんな馬鹿なことをしてるほど暇じゃないの」
「でも中学生最後の夏だよ」
「来年も夏は来るでしょ。それにあの廃館には誰か住んでるって聞いたけど?」
「それはないよ。ずっと売りに出されてるから」
「そう。でも私には関係ないわ。行かないもの、私」
交渉は失敗に終わりそうだった。僕はしょうがなくネズミのぬいぐるみを出した。
「好きだよね。これ」
「だから?」
「これは僕が隣町で朝から並んで買った物だ。多分再販はされない。もう二度と手に入らないよ」
「そんなもので釣られるほど子供じゃないわ」
僕と武井と姫野は肩を並べて心臓破りの坂を登り、その先の山を越え、廃館へと向かった。朝早くに出たのに廃館に着いた頃には昼ご飯を食べたくなるくらいお腹が減っていた。
廃館の周りは柵で囲まれていた。僕と武井だけなら乗り越えられる高さだったけど、姫野が無理と言ったので抜け道を探した。周りを歩いていると一部分だけ破壊された柵を見つけた。僕達はそこから中に入った。草むらを抜けて玄関の前に立つ。
僕は二人に言った。
「僕達、来年からは高校生になるよね。進路が違うから会う機会もきっと少なくなる。だから最後に思い出の場所を作っておきたいと思ったんだ。いつでも帰ってこられる秘密基地を」
どうかな、と訊くと二人は屈託のない顔で笑った。
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