いちのきゅう 女子高生戦士のきらら

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いちのきゅう 女子高生戦士のきらら

すごく怒っているよね。 それはそうだ。男が血相を変えて走ってきたと思ったら腕をねじりあげられたのだから。 誰だって怒る。 前を歩く〆子ときらら。俺は一人絶望の淵を歩んでいる。いや、違う。部室楝の廊下だった。 きららに触るのなんて、小学校の運動会でマイム・マイムで手を繋いで以来なかったのに。 腕に触れられたと思ったら、こんな形で、しかも痛手を追わせるなんて。 もっと冷静になれなかったのか、俺氏よ。 しかし、きららの二の腕、やわらかかったな。 アスリート体系とはいえ、そこはやっぱり女子なんだな。ぷにゅっとしてたよ。 「何してるの?」 妄想を、もとい猛省であります。 「早く入って」 いつの間にか部室の前にいた。 〆子まで俺を避けてか、きららと手を繋いだまま部室内からこっちを睨みつけている。 「後ろ閉めて」 入るなり指示が飛ぶ。 俺は後ろ手でドアを閉めてから、そのままの姿勢で部室の端の方へカニさん移動した。 この完全アウェー感。せめて背後だけは何かに守られたかった。 「どうして?」 きららの語気が強い。もう勘弁してほしい。 でも、怒ったきららも素敵だな。 って、俺は恋のストレイシープか。 「ショウ。きららはなんで気づいたかって聞いてるんだよ」 〆子の優しい声が聞えた。俺はこれを最後通牒と覚悟した。 女子が本気で怒った時の怖さは、母さんからさんざん教わってきた。 「答えて」 きららはつかみかからん勢いだ。 俺は二人の顔を見比べながら、 「見えたんだ。その、なんていうか黒いしたたりが」 と言ったら、きららの表情が変わった。どちらかと言えば、明るい方に。 「本当に? それだけ?」 語気のトーンも変わったような。 「本当だよ。でも目の錯覚だった。今は、ほら何ともなってない、よね」 胸の前で組まれたきららの白くてしなやかな腕を指して言った。 実際は本当に見えた。幻視なんかじゃなかった。 でも今は錯覚だったんだと自分に言い聞かせる。 「それって、ショウくんに気付かせた人がいるでしょ」 「気づかせた人?」  「ショウくんにあたしの腕を見るように促したか、そそのかしたか」 「いや、そんな奴は・・・・・」 「よく考えて。急を要することなの」 「そんなこと言っても。おもいうかば・・・・、いた。康太がきららに教えてほしいって」 「何を」 「きららが持ってるガジェットどこで買ったかって」 康太も俺と同じ黒い滴りを見たけど、武器装備が好きすぎてバイアスがかかったのかも。 「ガジェット? あたしがガジェット持ってるって言ったの。康太くんが?」 「うん。言った」 おれが答えると、きららと〆子が目を合わせ、しばらく二人で向き合ったまま黙っていた。 疑ってるのか? 「本当だよ。康太が・・・・」 これを見せれば康太を売ることになる。 しかし、俺は卑怯者になってもこの難局を乗り切りたかったんだ。 だって、きららに嫌われたら俺の高校生活は終わりだから。 すまん、康太。俺の高校生活の代わりに死んでくれ。 俺はポケットに捻じ込んであったプラズマガンの絵を二人に見せた。 よれてしまっていたから机の上で丁寧に伸ばして。さあご覧あれ。 「これは」 きららの切れ長の目が、針ニッケル鉱より細くなった。 そしてそのまま固く目を閉じて、あごに手をやったまま動かなくなった。 ・・・・ノジュールの様に(言いたいだけ)。 今きららの頭の中で俺の裁判が行われている。 有罪か無罪か。永遠ともいえる時間が流れる。 きららの目がゆっくりと開いた。そして俺を見て言った。 「分かった。ショウくんもういいよ」 どうやら無罪放免のようだ。俺の高校生活はまだご存命のこととお喜び申し上げます。 ごめんな。俺は康太に向かってこっそり謝った。 俺は無聊に手持無沙汰を上乗せして、ほこりをかぶった鉱石標本を見ていた。 〆子ときららは対面してパイプ椅子に座り、両手を握り合っていた。 その間、何のやり取りもない。 業間休みが長いとは言え、そろそろ3限の授業が始まる。 「それで、何か分かったの?」 と聞いてみた。決して許されたとは思ってないという気持ちを前面に出しつつ。 すると、きららはいつもの穏やかな感じで、 「うん。多分、康太くんが次のターゲット」 と言った。 そして立ち上がって部室の真ん中あたりまで行くと、右の腕を虚空に突き出した。 「ぼわ」 という音とともに衝撃波が起こって部室が陽炎にゆらぐ。 俺は眩暈がして一瞬視界を失ったが、すぐに回復してきららを見ると、 きららの前腕にめっちゃごっつい武器腕が付いていた。 武装腕とは前腕部に銃や大砲、火炎放射器やプラズマガンを装着する特殊武器だ。 ただ、きららの武器腕は、康太のイラストよりもずっとえぐすぎでハイパースペックに見えた。 そしてきらら自身は、今や鉱石研究部長などではなく、 女子高生戦士 だった。装備は白いセーラー服のままだけど。 威風堂々、女子高生戦士きららは武器腕を天井に向け、歯を食いしばる。 俺は思わず耳を塞ぐ。 武器腕が激しく振動し部室の窓ガラスがガタガタと音をたてる。 青白いプラズマ光が銃口に集まり始めて、いよいよエネルギー状態が極大になる。 そして武器腕から出たのは! ブシューシュー。 しょぼい音。 「まただー、これどうやって使うかわかんない時あるのー」 きららが舌をだしておどけて見せた。 ------------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 きららのイメージはやっぱりセーラームーンになっちゃうのかな。 でも「コブラ」(男)なんかも兼ねてますし。 もしよろしければお気軽に感想、レビュー等お寄せいただけるとうれしいです。 またスター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 次の公開は 10月8日(木)PM8時 です。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 takerunjp
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