いちのじゅうご 〆子ときららとプールサイドで、の俺

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いちのじゅうご 〆子ときららとプールサイドで、の俺

「ザクロはあたしの双子の妹なの」 「いくらなんでも、そのサバの読み方は」 間髪入れず〆子が心の声で、 「浦島効果だ、二等兵殿」 と言った。 あー、相対性理論がどうたらってやつね。 「5次元を介してだから、ここの理屈が通るか分からないけど」 と言いながら、きららは机の上のカバンを脇によけた。 「ザクロは小学校4年の春にGに攫われた。あたしはその身代として戦ってる」 きららが転校してきた頃だ。 「それからずっと?」 「そうだよ」 「ショウがのんきに海藻サラダ食べてる間ずっとな」 〆子の心の声が言う。 「きらら、さっきザクロちゃんが『また邪魔しに来たの』って言ったけど、あれって」 「あいちゃんとは何度も戦ってる。今回の入れたら99勝138敗5分け。記念すべき100勝目を逃した」 きららは教卓の方の銀色の巨大耳を睨みつけた。 「そんなに?」 「これでも少ない方。2限目やった相手は18勝249敗12分、めっちゃ手ごわいけど今日ひさびさに勝った。ありがとゆいちゃん」 「ふん!」 ガッツポーズしてるけど、 「いや、戦績とかじゃなくて」 きららはいたずらっぽく笑うと、俺の目を見て言った。 「わかってるよ。ショウくんが知りたいのは仕組みでしょ」  きららたちはボーダーとストライパーとに別れて戦いを繰り返しているという。 そしてその戦いに敗れると恐ろしいペナルティーが待ってるとも。 「あたしたちストライパーは時間を進める側、ボーダーは時間を留める側なの。言ってる意味わかる?」 「いや、わからん」 「ストライパーが勝てば時間は正常に進むし、ボーダーが勝てば時間はそこにとどまる」 「さらにわからん」 「だよね。なんて説明すればいいかな。じゃあ角度を変えてパラレルワールドって知ってるよね」 そっち? めっちゃ急角度だな。 「ああ、並行世界でしょ。この世界と似たような世界が別に存在するって言う」 「それは信じる?」 「信じるも何も、ないと話が先に進まないんだろ」 「それな。で、それってどうやって存在するかまでは知らないよね」 「この世界がそうであるように、ただあるってだけなんじゃ?」 「……ただあるか」 きららは〆子に目をやってから、少し悲しそうな表情で俺を見返した。 「違うんだ。あたしたちストライパーを食べて作り出すの」 食べる? 誰が? ボーダーが? 「じゃあ、あいちゃんがきららを食べるの? あいちゃんってボーダーなんだよね」 きららはプッと噴き出すと言った。 「あいちゃんが食べちゃうのは可愛い女の子」 「じゃあ、〆子を?」 「違が!。てか、食べるのはGたちだよ」 そのGに喰われることこそが負けたストライパーに与えられるペナルティーなのだった。 「ゾンビみたいに?」 「それも違う。食べるのは『エントロピーの種』だけ。時の推進力って言った方が分かるかな」 どう言われても分からない。 「あたしたちストライパーの体内には時の推進力である『エントロピーの種』が植え付けられてるの」 ということは、俺の中にもそいつがあるんだな。しらんけど。 「『エントロピーの種』はあたしたちの能力の源でもあって、あたしたちが戦って能力を高めるにつれて威力を増してゆく。そして、『エントロピーの種』が育っていれば育っているほどリアルで巨大なパラレルワールドになる」 わかるような、わからないような。 「ストライパーは『エントロピーの種』を育み、ボーダーはそれを刈り取ってGに供する。それがあたしたちの戦いの意味」 「でも、なんでGはパラレルワールドを作りたいの?」 「新たにパラレルワールドができればそこに時間のエネルギーを振り分けなければならない。その時少しだけエントロピーの進みが緩まるから、かな?」 「エントロピーをおちょくってるだけかもだけど」 とは〆子。 「どっちにしろ迷惑な話。あたしたちの本当の時間を返してほしい」 〆子が俺の手を放して、きららの肩に手を回し撫でさする。 「ザクロと一緒に卒業したいもんね」 〆子の心の声が言うと、きららの目尻に光の玉ができ、それが一筋の涙となって頬を伝って落ちた。 時間が静謐を造形(かたちづく)っていた。誰もが頑なにそこに踏みとどまっているかのようだった。 「時間に気をつけて」 母さんの言葉が脳裏に浮かんできて、またすぐ消えていった。 ギッゴーン、ガーンコーン、キンゴーン。 5限の予鈴が鳴った。他の生徒たちが席を立って教室から出て行く。 中根さんも巨大な耳を一旦しまうことにしたらしかった。 「あ、早く行かなきゃ。次水泳だったじゃん」 きららは荷物を取ると〆子の手を握って立ち上がった。 「まだ、話が」 俺が追いすがろうとすると、 「いくらでも時間はあるから」 と言って二人は教室を出て行ってしまった。 「聞きたいことが残ってるって」 中途半端な気持ちのまま、次の時間のつまらない動画を見るのはいやだった。 俺は大急ぎで保健体育の用意をして二人を追いかけた。  二人はお弁当を置きに特進に立ち寄ったので、そこでなんとか追いついた。 外の螺旋階段を降りながら俺は質問をぶつけた。 「それで、ボーダーには他に誰がいるの?」 「それは分からない。いつだれがボーダーとして目覚めるかもしれないし。今日のショウくんみたいに」 「康太は? あいつもボーダーなんでしょ」 「3軍だって言ったろ」 と〆子。 「あ、そういうこと? つまり使役されてるだけ?」 「だ、二等兵殿」 「中根さんも」 「だ」 「ボーダーとストライパーが戦う必要ある?『エントロピーの種』が欲しいなら、直接Gが取りにくればいいじゃない」 「それはきっと偶発性が必要だから」 〆子が立ち止まって言う。 「恣意的な結果では『エントロピーの種』は作用しない。らしい」 「でも、さっきみたいにザクロちゃんを介入させられるってことは結果にGの恣意が入ってるよね」 「だから、らしいだ。二等兵殿」 そして、きららがいたずらっぽい目で俺を見て言った。 「で、ショウくんはスク水を着て、あたしたちとプールサイドで仲良くしたいのかな?」 見るとそこは、女子更衣室の中だった。 「きゃーーーーー」 と言ってブラやパンティが飛んでくるのは2次元世界でのこと。 ここ3次元で飛んで来たのは、 マッチョな女体育教官の左フックと右のローブローだった。 失われゆく意識の中で股間を抑えながら俺は最後の質問をした。 「種をやられたらどうなるの?」 きららが何か言った。しかしすでに深淵に引き釣り込まれた俺の耳には届かなかった。 ------------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 男子は「種」と言う言葉に敏感なんです。 もしよろしければお気軽に感想、レビュー等お寄せいただけるとうれしいです。 またスター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 takerunjp
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