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にのご くるみ、レッツ・パーリィータイムする
俺は集中してくるみの足音を聞く。
くるみは路地のさらに奥の狭い通路に入ってゆく。
少し歩調が変わったようだ。先ほどよりも慎重な足取りな気がする。
くるみがデコ刀を大上段に構える。
それを真っ向から振り下ろすと、
目の前の空間に漆黒の切れ目が入る。
【くるみちゃん伝説その4】
「くるみの一太刀は時空を切り裂く。斬鉄剣とかwだから」
いくらなんでも斬鉄剣に失礼だと思うが。まあネット雀の言うことだから。
次いでくるみがその切れ目に自らの手を突き入れる。
しばらく中をまさぐって、勢いよくその手を抜くと、
真っ黒い玉状のものが手に握られていた。人の頭ほどの大きさだ。
そして抜き出した時のくるみの腕も、まるできららの時のようなG色に変色していた。
しばらくするとその真っ黒いものが人の肌色に変わり目鼻が出て来た。
どうやら人の頭のようだった。そしてさらに表情がわかるようになってゆく。
見た感じ生首のようだが、どうやら生きているらしい。黒目が動いているように見える。
だがその表情は、目はとろんとして意識は朦朧としている感じだ。
明らかにアンパンやボンドでラリった人間の顔をしていた。知らんけど。
くるみはそれをしげしげと眺めていたが、しばらくすると元の切れ目の中に戻して、再び通路の奥に歩みだした。
くるみはその後も、デコ刀で切っては切れ目から人の頭を取り出すことを繰り返した。
そして、狭い通路が突然開けた。地面に雑草が生い茂っている。
その真ん中には、古びた2階建てのビルが街灯に照らされて建っていた。
四角四面で茶色のタイルが壁全面を覆っている。
窓ガラスは全て割れ、中から空色のビニールシートで密封されている。廃ビルのようでもある。
入口らしき場所は見えない。
くるみはビルの真正面までゆっくりと歩いてゆく。
そしてビルを見上げながら、それまで以上に溜めを作ってデコ刀を大上段に構えた。
くるみの両肩あたりからシュウシュウと湯気が立つ。そして周囲に陽炎が激しくたち始めると、
デコ刀を真っ向から振り下ろした。
ゾン! 一撃だった。
キラキラキラーーン。パラパラパラ。少し遅れてスワロフスキが降ってきた。
茶タイルのビルは屋上から一階まで亀裂が走り、真っ二つに割れてしまった。
それと同時にその割れ目から大量の黒汁が溢れ出し、広場一帯が黒汁の海となる。
俺と〆子も、それに押し流されまいと近くの街灯にしがみついて耐えた。
しばらくしてすべての黒汁が地面に滲んで平地に戻ると、そこに現れたのはGの大集団。
数百匹はいるだろうか。
「行くぞ! レッツ・パーリィータイムだ」
と、くるみはデコ刀を構え直し、勢いをつけてそのド真ん中に切り込んでゆく。
デコ刀の刃がGの体を捕える。
にゅうるぅ!
一刀両断するかと思ったら、Gの肉はデコ刀の刃を嘗めとるように抵抗なくいなしてしまった。
それでもくるみは、デコ刀をふるいまくり手当たり次第にGに斬撃をお見舞いしてゆく。
くるみの斬撃はどれも致命傷を与えられるほどの破壊力をもったものだが、Gたちにはまったく効き目がない。
Gが嘲笑っている声なき声が聞えるようだ。
「くっそ。ひょうたんなまずめ」
くるみが悪態を付く。
それでも、デコ刀を繰り出す数の多さとその強大な波動で段々とくるみの目の前が開けて行く。
くるみの全身から湯気がもうもうと立ち上がり、それが少しずつだが中心に近づいてゆくのが分かる。
くるみの連続斬撃でGの塊の真ん中あたりまで切り開いた時、くるみは一旦デコ刀を横に構えなおしその場で回転を始めた。
黒汁とともに弾き飛ばされるGたち。湯気が竜巻の様にうねり始める。
そうしてついにくるみの回転が止まった。
湯気がまっすぐ真上に立ち上ってゆく。
見ると、Gたちが蝟集するその真ん中にぽっかりと丸く空間が出来ていた。
それの外周にGたちが居並んで、くるみに注視している感じだった。
くるみがその場にデコ刀を置き、地面に跪く。
そしてそこにあった人の頭ほどの黒い玉状のものを大事そうに胸に抱えると、両の手でそれを拭いだした。
みるみる人肌を取り戻す黒い玉。目鼻立ちが戻りつぶった瞳がゆっくりと開いてゆく。
その面持ちは、これまでの生首とは比べ物にならないほど美しく、高貴でさえあった。
「いま、連れて帰ってやるからな」
と言うと、くるみは珠玉でも扱うようにその頭を脇に置き、地面に肩まで腕を突っ込んで地中をまさぐり出した。
そして勢いよく腕を引き出した時には、首のない真っ黒なボディーが引き上げられたのだった。
全体を黒汁が分厚く覆い、うっすらと陽炎がまとわりついている。
くるみはその肢体も頭の時と同様、両手で黒汁をぬぐい取り、人肌を露わにすると、
脇に置いたあった頭を手に取って、それを慎重に首の所に載せた。
黒い物体はみるみる人の体をなしてゆく。
時にビクビクと痙攣をしながら頭から首、首から胸、胸から腹、腹から腰少しずつその正体を露わにしてゆく。
そして最後に手と足が露わになった時、それは人に戻ったのだった。
現れたのは学園の制服を着た夜飛ぶ蝶のように可憐な少女だった。
頬はこけ、制服から出ている手足はひどく細かった。痩せた肩がふるふると震えているのがこちらからも分かった。
その少女は、運動座りのまま地面に顔を落とした姿勢で動こうとしない。
くるみがその折れそうなほどか細く白い腕をとり、
「帰ろう」
というと、その少女は首を横に振った。
「ここにいちゃだめだ」
また、首をふる。さっきよりも激しく。
くるみが腕で支えて起き上がらせようとすると、
そんな力どこにあるんだという抵抗を示し、
ばっちん!
くるみを弾き飛ばした。
くるみは数メートル後方に飛んで尻もちを搗く。すかさず立ち上がるも、
その一瞬の間に、少女をGが覆いつくし始める。
「まってくれ!声を、声だけでも聞かせてくれ」
Gの中に沈みゆく少女の震える声が聞える。
「お姉、もうここに来ないで」
くるみは唖然とした表情でその場に立ち尽くし、Gたちがその少女を再び飲み込んでゆくのを見つめていた。
茶色のタイルで覆われた古びたビルが再生されてゆく。
辺りはいつしか元の姿に戻っていた。
黄色い街灯が神経質に点滅しながらビルの正面を不気味に照らしている。
それを前にしてうなだれ佇むくるみの背中は、あの最強にして最恐の超絶美少女とは思えないほど裏びれて見えた。
また生臭い風の匂いがした。
「あれがくるみの妹分、星形みいだ。Gの毒に魅せられてしまっている」
慈恩だった。
「俺に任せろって言ってるのに、言うこと聞かんからだ」
というと、再びくるみに纏わりつきに行くかと思ったら、
「あ、配信の時間だ。じゃ、俺これで失礼するね。チャンネル登録と高評価お願いします」
と言って反対方向に転がって行ってしまった。
〆子の声が言った。
「くるみの戦う理由だ」
ボーダー側にも人質があるということらしい。
きららはザクロのために戦い、くるみはあの少女のために戦っている。
いま、俺にもくるみの腕のタトゥーの意味が分かった。
★31。
くるみの体に刻み込まれたのはあの少女の存在だったのだ。
Gは我々を戦わせるのに一番大切なものを奪い取っている。
くるみが近づいてくる。俺たちの前まで来ると、電子タバコをひと吹かしして、
「ゆい、早く帰れ。こんな、生きてるけど死んでもいるよーなとこにいつまでもいんな」
と言うと、再び夜の街に向かって歩き出し、
「帰ってまーた一人でデコんなきゃだよ。めんどくせーな、ったく」
と独り言ちた。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
くるみの戦う理由は、星形みいでした。
その存在を体に刻み、孤独な戦いを続けるくるみ。
次のアルファベット戦も必ず勝たなければなりません。
なぜなら・・・・。
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次回の更新は
10月29日(木)20時
になります。
今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。
takerunjp
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