にのじゅうに くるみ、マブダチとタイマンする

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にのじゅうに くるみ、マブダチとタイマンする

ぺしゃんこになった赤さび色の車がいくつも積み重なった場所に、 ピンクや黒、赤い特攻服を来た人たちが数十人集まっている。 その中の一番偉そうな人が言った。 「お前か?京藤くるみってのは」 「あ?」 「京藤くるみってのはお前か?って聞いてんの」 「あ?聞えねーよ」 そりゃあ聞こえんよ。積まれた車の一番上からそんなちっさい声で。 俺は耳がいいから聞こえるけど、一般の方にはきっと無理。 「こういうとこ、なんて言うんだっけ?」 「ジャンクヤードだ」 と純白の特攻服を着たくるみが背後で言った。 そうそう。車の解体とかするところね。ヤード作業もやってるから音もまたすごいのよ。 目の前に展開されてるのは、どうやらくるみと星形みいのレディース入隊の場面らしいんだけど、さっきから くるみとレディースの偉い人とのやり取りがずっとこんな感じ。 「今そっち行くから」 「あ?」 えっちらおっちら、そんなにどんくさいなら初めから登んなきゃいいのに。 「あー、足滑った」 「痛って。なんだこのでっぱりは」 とか言って、すっごい時間かけて降りて来た。 「おまた」 「あ、はい」 「で、お前か京藤くるみってのは」 それを受けてくるみは、 「こっちでなくて主役はこの子」 「そっか、で、そちらのお姉ちゃんの後ろでちっさくなってるお嬢さんは何でウチに入りたいっての?」 星形みいが、くるみの腕にしがみついたままで答えようとすると、 「かわいこちゃん、そっから出ておいでー。おねいさんたちあんたのことたべちゃったりしないから」 と言って、星形みいの腕を掴もうとしたので、くるみがすかさず、 「さわんな、ごら!」 とすごんで見せる。 「はあ? どんだけ強いかしんねーけどな。ここじゃ、年功序列って鉄の掟があんだ。それが分かんねーなら帰れ」 と至極まっとうなことを言っているが、その偉い人の足はガクブル状態。 「お姉、いいよ」 と言って、星形みいはくるみの腕を離し、お偉いさんの前に進み出て、 「星形みいと言います。知り合いの紹介で来ました」 「おーそうか。でその知り合いってのはだれだ?」 「あたしでーす」 と声が上がったのは、居並ぶレディース連の後ろの方からだった。 みなさんが声のほうに振り返ると、 そこに屯っていたのは、まだ特攻服も着せてもらえない「サンピン」たちで、 その中から出て来たのが黒髪ロン毛、黒セーラー服に黒ロングスカートの女子だった。 顔が青白く頬はこけ、まったく生気を感じられないが、目力(めぢから)は強かった。 「おま!」 最初に声を発したのはくるみだった。 星形みいの顔と見比べて、ぐっと落ち着いた声で、 「どういうことだ?」 と言った。いつもの軽妙で優し気な口調ではなく、あきらかに怒気を含んだ真剣な感じが怖かった。 〆子が、 「う」 「なんて?」 「誰ですか?だそうです」 「カー子だ。おな小、おな中でみいと3人でつるんだマブダチ、だった」 その言葉にも何やら含みがあるようなので、今回くるみがここに連れて来た理由が、このカー子にあるのがよくわかった。 星形みいは免許センターで誘われたと言った時、くるみが知っているはずのカー子の名前を出さなかった。 それは、やはりくるみでなくても引っかかる。 「カー子、貴様!」 くるみの背中がキランと光った。刹那、右手にスワロフスキのデコ刀が握られていた。 「お姉、違うんだよ」 星形みいがくるみの腕にすがりつく。 「何が違う。あいつとは縁を切ったはずだろ」 「そうだけど、カー子ちゃんだってあれからすごい反省してたんだよ。お姉にどうやったら謝れるかって何度も相談してきて一緒に・・・・」 「相談だと? 一緒になんだ?」 その場が凍り付くのが分かった。 いや比喩でなく、目の前でほったらかしのレディースの偉い人は正直かわいそうなほど、固まっていた。 「お姉、ごめんなさん。でも、おな小からずっと一緒だったカー子ちゃんを放っとけなかったんだもん」 デコ刀を握ったくるみの手がぶるぶると震えているのが分かった。 手の甲にありえないほどの血管が浮き出ていて、いつブチッという音をして切れるかという状態になっていた。 「みいのやさしさに付け入りやがって」 静寂がヤードに広がった。 そして大喝。 「カー子、マジ許さねー!」 その波動が、車の山を揺らしヤードに広がるのが分かった 叫ぶが早いか、くるみは飛ぶように駆け、必殺の一撃をカー子に向かって打ち下ろした。 ガッギン! シュウーシュウーと立ち昇る湯気。 俺はくるみの背中から肩からもうもうと湯気が立つのを何度も見て来た。 だから、その湯気もはじめくるみのものかと思っていた。 が、そうではなかった。 くるみが繰り出したデコ刀と交差したカー子の片腕からそれは立ち昇っていた。 「カー子はすでにGの側にいた」 背後で特攻服のくるみが言った。 カー子の両腕はねじりあがって先端がとがり、真っ黒な液状のなにかがうねうねと絡みついていて、 その腕で一本でくるみの一撃を止めたのだった。 デコ刀がきらめかなかったのは黒汁にすべて飲み込まれたせいらしい。 「くるみ。あんたはもうあたしの姉さんじゃないんだよ」 と言うと、もう一方の腕でくるみを突いてきた。 くるみは斜めに飛んで間一髪それを避け、横に回転しながら機を伺う。 「あんたはずっと姉さん面して目障りだった。同い年なのになんで姉さんなんだ?」 「知るか、お前が呼び出したんだろ」 地面すれすれに飛び込んだくるみは、カー子のスネ目掛けて一刀お見舞いする。 ガッキ! 再びカー子のねじれた黒い腕がデコ刀を止めた。 くるみがカー子を睨め上げる。 「それそれ、その目だよ。見透かしたように人を見やがって。そういう所が大嫌いだったね」 と言って、もう一方の黒い腕で横殴りの一撃をくるみに浴びせかける。 くるみの瞬発力が勝ってピンクの髪を掠っただけで済んだが、一歩間違えばくるみの首は飛んでいたろう。 「でも、最愛のみいがこっちの味方だといったら、さすがのあんたもちびるんじゃないか?」 くるみの足が止まった。 レディースに誘ったのがカー子と分かった時から、そのことは宙づりのままになっていた。 「そうだよ。みいはすでにこっちの人間だ」 くるみはみいを横目で見た。 星形みいはその時、視線を少しずらした。 「みい?」 その時くるみに隙が出来た。 その隙を逃さずカー子は間を詰めると、ねじれ黒腕でくるみの腹部を突き刺した。 くるみを突き通した真っ黒い先端から黒汁がしたたり落ちる。 「お姉!」 星形みいが狂ったように叫びながら、くるみのもとに駆けよって行く。 周りのレディースの方々は、目の前で起きていることがまだ理解できていないようで、大口開けて立ち尽くしている。 無理もない、いきなりGだ黒汁だっていわれて、はいそうですかって飲み込める人間なんているわけないもの。 〆子の掌が熱を帯び必要以上に俺の手を握りしめている。 「う」 「なんて?」 「やられたの?だそうです」 「まあ、あいつはすでにG、こっちはまだパンピーだったしな。完敗だったよ」 「パンピー?」 「一般ピー(パンピー)プルのことな。フツーに使うべ?」 と言って特攻服のくるみは、デコ刀を横になぐと、4度目のG空間を押し広げた。 俺は、動かなくなったくるみを抱いて泣きじゃくる星形みいとその背後に立ってほくそ笑んでいるカー子の様子を目に焼き付けて、 次のG空間にダイブした。 --------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 くるみたちをGに引き入れた張本人はカー子です。 キャラ的には黒濡れ羽色のカラスをイメージしています。 よろしくお願いします。 次回の更新は 11月10日(火)20時 になります。 ご期待ください。 スター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 takerunjp
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