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にのじゅうきゅう きらら、ニュータウンでヘタを打つ
〆子ときららと俺と、岸田森林の4人は、きららから教えてもらった住所を頼りに、ニュータウンの青葉さんの家を探した。
ニュータウンとは言っても、30年以上も前にできたものだから、町全体が古ぼけた感じがする。
少し高いところにある公園から眺めたら、どの家も庭は広めだけど、屋根が低く起伏にへばりついて見えた。
同じような家々が並ぶこの中に青葉さんの家はあるのだ。
住所表示をたよりに、擁壁が道に迫る一番外れの一角にたどり着いた。
胸のあたりまでしかない白いフレームの門を開いて、赤レンガの階段を登り呼び鈴を鳴らす。
「はーーーい。今行きまーす」
元気な声が返ってきた。青葉さんの声ではないからお母さんのものかもしれない。
しかし、いくら待っても玄関がひらかない。申し訳ないと思ったが、もう一度呼び鈴を鳴らす。
「はーーーーい。今行きまーす」
とまた、元気な声。
「う」
〆子に促されて家の中に聞き耳を立てる。
玄関の下駄箱の直ぐ脇が扉になっていて、中を覗くとリビングとキッチン。
そこにはお母さんらしき人はいない。
「はーーーい。今行きまーす」
廊下の突き当りの階段の上からだった。
「はーーーい。今行きまーす」
階段を上がっていくと、声以外の音もしてきた。
ギコギコギコ。
舟を漕いでいるような音だ。さらにその音をたどる。
2階にあがると暗い廊下が伸びていて、その一番奥に障子が閉てられた部屋がある。
音はその中から聞こえて来るようだ。
中を見る。
部屋の窓辺にある机の前に、小柄な人が背中を丸めて座っている。
「はーーーい。今行きまーす」ギコギコギコ。
その人が前にしているのは昭和の中ごろには存在したという足踏み式のミシン台だった。
その人はミシンを踏み続けている。
ギコギコギコ。
横に回り込んで顔を見てみる。
黒かった。真っ黒の黒だった。星形みいの話を思い出す。
町で首を絞められ、気が付いたら大きなベッドに寝かされていて、
「あなたのお父さんとお母さんよ」
と言った人の顔は真っ黒だったという。
青葉さんはどこだろうか?
家の中にはいなさそうだった。
「いないみたいだけど」
そう言うと、
「じゃあ、どこへ行ったか聞いてみましょう」
と言って岸田森林が玄関を開けてずかずかと中に入って行った。
土足で。
〆子ときららと俺は玄関で待つ。
「いて」
2階で声がした。
鴨居に頭をぶつけたみたいだ。
しばらくして戻って来ると、
「犬の散歩に出てるそうです」
そして、お母さんの声真似で、
「名前はコロだったかしらー、ぺスだったかしらー、わすれちゃったわ。あら、犬なんて飼ってないわよ、いやねー」
と言った。
「あのGはかなりやられてるな」
青葉さんは公園にいるということだった。
その公園は、ニュータウンのド真ん中に位置していた。
緑の植栽が同心円をいくつも作り、その真ん中が芝生が生えた小山になっていた。
その頂に青葉さんは白い学園の制服を着て立っている。
黄色い電灯に照らされて、つやつやと光る芝生。
その芝生にうつ伏せる大型の犬。あれがコロ?ぺスとしても・・・。
「グロい」
きららが言った。
「おや、ずいぶんと変わられて」
岸田森林が言った。
「丸山くん」
その犬が丸山だった。
全身刺青の入った体を露わにし、棘が打たれた首輪に繋がれた鎖を青葉さんが握っている。
ゆっくりと立ち上がる丸山の両腕はカー子のように黒く捻じくれて尖っていた。
そして、パンツはけ。
「大きい」
ときららが言ったけど、それは背丈のことと思いたい。
青葉さんが岸田森林に向かって、
「兄がお世話になっています」
と言った。
「心あたりありませんが」
と返すと、
「うすのろの兄を言い含めてるって、このまるっぴから聞いてますが?」
そういう間も、丸山はこちらとの距離を縮めて来ている。
ぼわ!
きららの腕が金属バットに変わる。
「これ違う。最近こんなのしか取れないの」
〆子がきららの手を取った。
「う」
「ありがとう。ゆいちゃん」
もう一度、ぼわ!
きららの腕にトンプソン・サブマシンガンがついて来た。いわゆるトミーガンだ。
アル・カポネの禁酒法時代に活躍した丸い弾倉がついたやつ。
近接にはめっぽう強いが火力が心配、大丈夫か?
さすがのきららもそれを見て、
「どうしよ」
となったが、すでに丸山は「しっぽ」をぶらぶらしながらこちらに迫っていた。
「きゃーーー、こっちこないでー!」
と叫んだのは、俺。
だって、あんなグロイ「しっぽ」見せつけられたら怖いよ。純な高校生男子なんだよ。
「耳傾けろ」
わぼ!
丸山を飛ばす。
きららが〆子の手を放し、駆け出し丸山に切迫すると、
ガガガガガガガガガ!
だが、あたらない。きららはあさっての方に向けて撃っている。
「なんで」
きららが芝山の上の青葉さんを指さした。
見ると、周囲からもうもうと陽炎がたっている。
「いろいろ操れる」
だった。きららの腕を操っているのか。
丸山が仕掛ける。
再びこちらに迫るのを、わぼ! 俺が飛ばす。
きららが奔る。トミーガンを構える。
ガガガガガガガガガ!
しかし、弾は上斜め45度に向かって発射される。
「はめ技だ」
「はめ技?」
「一つの行為にはめて繰り返させる」
何度やっても同じことの繰り返し。
精神力が弱いと、いじやけて思考が停止する。
家にいた青葉さんのお母さんのことを思い出す。ギコギコギコ。
「ショウくん、もう一度お願い」
わぼ!
丸山がねじれた黒い腕を〆子に向けて突き出したところだった。
きららがアクロバティックに回転しながらそれに近づく。
重力で螺旋を描きつつ敵に肉薄してゆく攻撃。
きららの必殺技、重力螺旋爆攻だ。
さらにその回転のギアを上げる。
しかし、トミーガンの銃口は上方斜め45度で固まったままだ。
高速の螺旋回転。
銃口が丸山の額に重なるタイミングで、トミーガンが火を噴く。
ガ!
ガガ!
ガガガ!
ガガガガ!
ガガガガガ!
丸山のド頭に風穴が開く。
その場に倒れ伏す紋々ワンコ。
きららは着地すると、青葉さんの元に近づいて行く。
「青葉さん、ちょっとお話が」
「あの、私帰っても?」
岸田森林が言った。なんで今そうなる?
「岸田さん、いてください」
青葉さんが言った。
「はい、よろこんで」
やばい、岸田を取られた。
その時、きららの動きが完全に止まった。
止まったのはきららだけではなかった。
そうなるよね。俺と〆子も万事休す。
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
青葉さんってこれまでに2回出て来てて、
一回は2章の外ウマ集めの時のショウのモチベセリフの中と
もう一回は、最初の話(「ぜろ 破滅の学園」)の教室爆発後に
階段から降りて来てショウと会っています。あれあれ?ですよね。
トンプソン・サブマシンガン。
『ゴッドファーザー』で、長男のトニーが殺される場面で敵が使うのもこの銃でした。
その場面がいつまでも頭に焼き付いては離れないのは、
もうほぼ死に体のトニーが、車の外に出て来て、
さらに銃弾を喰らいながらあげた、
「あーーー」
というような、悲痛な断末魔のせいです。
あの場面を観て人生のはかなさを学んだ気がします。
やっぱり『GF』は野郎の人生の教科書です。
なんて言うと、エフロン姉妹に笑われそうですが。
次回の更新は
11月22日(日)朝8時
になります。
ご期待ください。
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今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。
takerunjp
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