にのにじゅう きらら、青葉るるにナシをつける

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にのにじゅう きらら、青葉るるにナシをつける

青葉さんは動かなくなったきららを横目に、丸山のところに歩いて行く。 丸山の側に立って異様に冷ややかな目でそれを見下ろすと足で丸山の頭を踏みつけにした。 きららがトミーガンで開けた穴にローファーの先をぐりぐりと押し付けている。 青葉さんの口元が薄く笑っているようだ。 「まるっぴはダメダメなイッヌね」 と言ってさらにぐりぐりする。 その度に、丸山の体はビクビクと痙攣し、目は白目を向いて口からよだれを垂らしている。 まるで愉悦に浸っているかのような表情だ。 それはおそらくローファーの先から染み出ている光輝くもののせいだ。 ネゲントロピーの雫。猛烈な中毒性があるという。 最後に、丸山の全身が波打つように大きく痙攣して止まった。 青山さんが足を頭からどけて言う。 「いつまで寝てるの? 起きなさい。まるっぴ」 すると丸山はムックと起き上がり、四つん這いで青葉さんの横に付く。 「姐さん、めんぼくねえ」 と眉毛をハの字に寄せて、青葉さんを上目遣いに見ながら言った。 その額の風穴は完全にふさがっていた。 「まるっぴおいで」 「へい」 青葉さんが丸山の首ひもを曳いて、きららに近づいてゆく。 「そんな弱くて、いつまで特進αの女番はってられるかしら」 きららは何も返せない。 「あたしは特進の女番なんて興味ないけど」 そう言うと青葉さんは、きららのパッツン前髪のおでこを指ではじき、 「あたしが狙っているのは星形みいの座。あそこ居心地よさそうだと思わない?」 「う」 〆子が心の声で言った。 「何?なんて言ったの?」 「青葉さんは星形みいにはなれないって」 喋れた。タイムストップが終わったのだ。 「おさるのジョージくんがどうして喋れるの?。岸田さん!」 といって、青葉さんは岸田森林の方を見たが、岸田森林はもうそこにいなかった。 帰ってしまっていた。 青葉さんがきららに向き返ったので、 わぼ! 青葉さんを公園の外に飛ばした。 「それな」 〆子の心の声がした。 たしかに最初からこうすればよかった。いつも2択を間違える。 公園の外から青葉さんが大股で同心円に踏み込んだ。 ワンコの丸山がそれに気づいて頭を高く上げたので、 今度は丸山を青葉さんとは逆方向に飛ばした。 あまり遠くには飛ばせず、やっぱり「しっぽ」を振って戻って来るのが見えたので、 今度はきららを同心円上の最適座標にわぼしようとすると、 「待って」 と言って、きららがそれを制した。 「話し合わなきゃ」 俺たちはもともとそのためにやって来たのだった。 改めて、青葉るるの家に上がらせてもらう。丸山は庭の犬小屋の前に繋いでおくらしかった。 丸山が家に入る俺たちを、うらやましそうな情けない目で見ていた。 青葉るるの部屋は、お母さんのいるミシンの部屋の奥だった。 「あらお友達? いらっしゃーい。いまカルピスとおせんべいお出しするわね」ギコギコギコ。 カルピスもおせんべいも、きっと永遠に出てこないだろう。 障子を開けると、そこは京藤くるみの部屋のようにガランとした空間だった。 たった一つ、部屋の隅に小学生が使うような学習机が場所を占めている。 ラベンダー色のランドセルや体操服入れの布カバンが机の横にかけたままだ。 〆子ときららが窓際に、俺は障子寄りに座る。青葉るるは自分の学習机の椅子を出し足を組んで腰かけた。 「どうして青葉さんは慈恩くんをボーダーにしたいの?」 きららがさっそく話を始める。 青葉るるはそれに答えて、 「星形みいがあやういということをリアルに感じるから」 といった。 星形みいと自分がよく似ているから分かるとも言った。 聞けば、その境遇もまた星形みいがGにとらわれた時とそっくりだった。 「ママがあいつにすり替わった時、あたしも既に何かされたと分かった」 朝起きると寝床の横に母親が正座をしていて、 「お母さんですよ。あなたは具合がわるいから、しばらくお休みしなさい」 と言われた。自分からお母さんですよという母親なんていない。 父親を亡くしたときとほど悲しくはなかったらしい。 そっちはどうかと慈恩に連絡して 「お母さんがかわちゃった」 と言ったら、慈恩はそれを母親が男を連れ込むようになったと勘違いしたらしい。 「まあ、もともと頼る気なんてなかったし」 その日から、毎食寝床にご飯を運んで来たけれど、具合が悪いという割には一向に医者らしい人には合わせてもらえなかった。 ある日、医者のことを問いただすと、一旦別室に行った母親が看護師の恰好をして再び入ってきて、 「医者です。体調どうですか?」 と診察を始めた。 医者に扮したつもりの母親は、喉の様子やお腹の触診をしだした。 そして青葉るるのパジャマの胸を開くとそこに手刀を突き立てて開いた。 次いでレモンの様に心臓を絞って滲み出て来た光輝く液体を小瓶に受けると、 それを自分の口のあたりに持って行ってゴクゴクと音をさせて飲み干した。 「これで体調はよくなりましたよ。明日からガッコへ行ってもいいです」 と言ったという。 やがて青葉るるは能力に目覚め、仕返しにあいつをミシンに縛り付けた。 星形みいとは多少異なるが、Gが親になり替わる、ネゲントロピーを心臓から絞り出すなどの点でよく似た話だった。 さらに青葉るるは、星形みいに自分が代われるというのはとても魅力的だと言った。 「だって、あたしがみんなの源になるんだもの。まるで聖母マリア様みたいでしょ?」 慈母マリア。神の子イエスの穢れなき母。 机の前に天使に女性が話しかけられている絵が飾ったあった。 よくある古い形式のではない『夢幻紳士』の高橋葉介が描いたようなやつだ。 「受胎告知。聖母マリア様がお腹に神の子イエスが宿っていることを大天使ガブリエルに告げられてる図」 毎日うっとりと眺めてるらしい。 「直美ちゃんに丸山をけしかけたのは青葉さん?」 「直美ちゃん? ああ、あの大男ね。あたしが兄のことを相談したいって言ったら、めっちゃ油断してw」 人のよさそうな直美ちゃんのことだから、親身になってあげようとしたのだろう。 そこを丸山に襲わせたということだった。 「そうでもしないと、あのぼんくら兄貴、動かないんだもん」 「なんで、そんなに焦ってるの?」 「だって、星形みいが死ぬまでにボーダーでないと」 人質の星形みいと身代の京藤くるみの関係を想定しているのだろう。 「そういうものなの?」 「わかんないけど。準備しておいたほうがいいでしょ?」 Gのすること、自分達が思うようなことでは対応できないはずだと、きららは言った。 「それはそうだけど」 青葉るるはきららの言うことは十分すぎるほどわかっている風だった。 「それでも、みんなのために何かしなきゃって」 それが空回りしている最大の原因のようだ。 やっぱり、兄妹の血は争えないと言うことなのかもしれない。 「とにかく外野が騒がない。で、いい?」 「分かった」 本当に分かったのかどうか、知れたものじゃない。 青葉るるなら人のためと言ってまたぞろ好き勝手なことをするような気がした。 帰り際、青葉るるは丸山と一緒に家の前で俺たちを見送ってくれた。 丸山は鎖でつながれ青葉るるの横にお座りをしている。 手を振るきらら。〆子の代わりに俺も手を振る。 手を振り返す青葉るるを見上げて丸山が何か言っている。 聞き耳を立ててみる。 「姐さん。頼むからパンツはかせてくれ」 「だめよ。まるっぴはイッヌでしょ。イッヌはパンツはかないの」 丸山はしょげかえりながら、犬小屋に戻って行った。 青葉るるは星形みいに変わってボーダーの母になるつもりだ。 本当にそれが実現したらボーダーの慈母マリアの周りは、きっとフリ○ンだらけだ。 --------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 慈恩くん物語が終わりました。 青葉るる、予測不能な存在です。 次回からアルファベット戦です。 いよいよ重力螺旋爆攻のきららと最強にして最恐の美少女番長くるみとが激突します。 くるみちゃんの異能力技がきららたち特進αに向けて炸裂します。 どんな技かは次回からのお楽しみに。 ヒントは「にのじゅうご」の最後でショウがちょっと口にしています。 次回の更新は 11月24日(火)20時 になります。 ご期待ください。 スター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 takerunjp
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