さんのご ♪るるとお散歩たのしいな~る~るるるる~

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さんのご ♪るるとお散歩たのしいな~る~るるるる~

夕暮れ迫る森の道、水色ワンピのるるは俺の可愛い彼女さん。 ♪るるるるる、♪るるるるる。 今日はるると初めてのデートだ。 ……。 違った。お散歩だった。 るるは飼い主。俺はイッヌ。  「♪わんきゃんわんきゃん(お散歩お散歩)きゃんきゃいーーん(たのしーなー)」 痛たた。首いたい。 後ろからリードを引っ張られた。 「きゅーんきゅん(リードひっぱらないで)きゅーん(首が釣るから)」 振り返るとるるが坂道を見上げて立ち止まっていた。 その先は、小暗い雑木林になっていてシイやクヌギの木々が生い茂っている。 「ジョウっち、今日はこっち行こっか」 というと、るるは森への道を駆け上って行く。 俺は興奮した。 朽ちた葉っぱやクヌギの蜜の饐えた匂いの中に混じった生き物の匂いがしているからだ。 何がいるだろう。 カブトムシやクワガタ。カナブンでもいいぞ。 いや、ネズミやモグラがいいな。あいつら遊べるし。 トカゲとかヘビとだって今の俺には敵じゃない。 なんせ、るるが付いている。  雑木林の中の道は土で、足の裏がひんやりと気持ちよかった。 夏の日差しに照らされたアスファルトは夕方になっても裸足の足には応えた。 ちょっとおしっこ。 「ジョウっち。おいで」 「わんわーん(今行きまーす)」 なんて幸せなんだろう。 イッヌに生まれて本当によかった。 何の責任もないし、何の心配もないもの。 みんなご主人様にまかせておけばおk。  雑木林の道をしばらく行くと、少し広い場所に出た。 真ん中には太い枯れ木が一本だけ生えている。 その周りの下草は淡い色をして、陽の光が射して明るくなっていた。 るるはリードを外してくれた。 「さあ、行っておいで」 俺はそこに駆け入って、ひらひらと舞う蝶々を追いかけて飛び跳ねる。 そしてゴロゴロだ。 ゴロゴロって気持ちいい。 ずっとゴロゴロしていたい。 「きゃわんわん(るるこっちおいでよ)きゃわん(気持ちいいよ)」 るるを呼んだが、るるは広場の入り口に立ってこっちに来ない。 「きゃうん(どうしたの?)」 「ジョウっち、その真ん中の木のところでお座りしてて」 「きゃう(はい)」 そう言われて俺は、古木のそばに行ってお座りした。 枯れた木の前に行くと、その木の幹に人が入れるくらいの大きな(うろ)があることが分かった。 そして中からごそごそと音がしていた。 中に何かいるんだろうか。 匂いを嗅いでみる。 なにやら嫌なにおいがする。 カナブンとパクチーを混ぜたような匂い。 俺はさらに中を覗いてみた。 ビックリした。 洞の底から金色の目がこっちを見ていた。 俺は慌てて飛びし去った。 「きゃん(なんだ?)」 もう一度、祠の入り口に近づいて恐る恐る中を覗いてみる。 暗闇に目が慣れて、金色の目の姿が段々見えてきた。 それは、頭はおっさんだが身体はとぐろを巻いた蛇の怪物だった。 そいつがこっちをぎろりと睨みつけている。 そして 「また、るるが男を連れて来たな。淫乱女め」 と言ったのだった。 「お父さん。何度言ったら分かるの?るるは淫乱女なんかじゃないから」 と、広場の端からるるが言った。 お父さんだって? るるのお父さんって、過労死したって噂だったけど。 「あの淫乱女は俺が死ぬ思いで働いてた時に男と浮気してたんだ。その娘のお前は淫乱女に決まっている」 「違うって言うのに。あたしとお母さんとは違う人間だよ」 「これ以上お前が淫乱女にならないように、そっちに行ってお仕置きをしてやる」 そう言うと、蛇オヤジが洞の中で蠢きだした。 「手足がなくても、お前をぶつことぐらいできるのだ。今、そっちに行くからな!」 しかし、洞の底でぐるぐるととぐろを巻きなおすばかりで、外に出てくる気配がない。 しばらくして蛇オヤジがぐるぐるするのをやめて情けない声で言った。 「るる、お願いだ。この犬をどけてくれ。でないとここから出てお前を折檻できない」 すると、るるは高らかに笑いながら、 「やだよ。絶対どけるもんか。そうやって永遠にそのせっまいとこで(くだ)まいてるがいい」 と言うと、青葉るるは踵を返して広場に背中を向け歩き去った。 それを見送りつつも、俺はいい機会だと思って挨拶をした。 「お父さん。僕、今度るると付き合うことになった条時ショウといいます。キリ!」 返事なし。 どうやら言ったつもりだったが、 「わん」 としか変換されなかったみたいだ。 イッヌ語で長い文章は無理っぽい。 「君は、るるの友だちか?」 お父さんの声だ。 しかし、それは洞の中からではなくずっと遥か遠くから響いて来る声だった。 「どうか、るるを助けてやって欲しい」 「わん?(助ける?)」 「るるは、恐れている。それを取り除いてやって欲しい」 「わんわ?(何を?)」 「魔王だ」 「わわんわ?(魔王ですか?)」 そこでお父さんの声は途切れた。 洞の中を見て見ると、蛇オヤジはとぐろを巻いて目をつぶっていた。 こいつがしゃべったんだろうか? いいや、違うと犬の嗅覚が知らせてきた。  るるとお風呂。 もちろんるるはジャージ着てるぞ。変な想像すんな。 蚤取りシャンプーして、背中を流してくれた。 「ちんちんは自分で洗いなさい」 と言ってタオルを渡された。 だよな。 るるはドSと言えどもJKだ。 ちんちんを手でごしごしするわけにはいかない。 それにそんなことされたら俺の理性はぶっ飛んでマウンティングでもしかねない。 人の足にすがりつきヘコヘコする、あれだ。 あれはイッヌとして一番恥ずかしい行為だ。 それは分かっている。 でも女の子のいい匂いとか嗅ぐと、もういてもたってもいられなくなって、 ヘコヘコヘコヘコヘコヘコ。 泣けてくる。  体に着いた泡を洗い流して風呂場を出ると、るるが真っ白いバスタオルで拭いてくれた。 なんともいい気持ち。  そのまま、リビングのソファにお座りして、るるとTVを見る。 TVではナイターをやっていた。 パシパシ。 るるはグローブをしてボールをそれに打ち付けながら観ている。 バッターがファウルを打って、グランドガールがそれを取り、観客席に投げ入れた。 「このボールあれで貰ったボールなんだよ」 俺の鼻先にボールを差し出した。 昔のことなのか、それらしい匂いはしなかった。 「わう?(いつ?)」 「ちいさいころ、お父さんと一緒に試合観に行って」 ボールには、かすかにお父さんの匂いが残っていた。 「わうあう?(お父さんと?)」 「うん、そのころはホントにやさしい人だった。今はクソだけど」 パシパシ。 ボールをグローブに打ち付ける音。 やがてそれが止まった。 見ると、るるの頬に涙の跡が一筋出来ていた。  試合の結果が分かる前に、中継は終わった。 「寝よっか」 俺は頭が爆発しそうになった。 付き合ってまだ間もないのに、初夜?! よかった、イッヌになったからこその急接近だもの。 俺はいそいそと、るるについて二階に上がる。 るるが奥の部屋から両手にタオルケットを持って来た。 二人で雑魚寝ですか? それもなんか初々しくって、よき。 「これ、ジョウっちの分ね。廊下寒いから」 ……廊下。 そうだよな。俺はイッヌだもの。廊下で寝るべきなんだよな。 一気に萎えて行く俺のワクワク感。 「おやすみ」 そう言って、るるは俺に背を向けると、ミシン台をギコギコ言わせているG母の肩にタオルケットを掛けて、 「お母さん、お休み」 と言って、奥の部屋に消えたのだった。 --------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 るるとお散歩。 現れたのは頭オヤジ蛇。 汚い言葉でるるを貶めるこいつは何者? 次回の更新も月曜の予定です。 スター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 真毒丸タケル
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