さんのろく 「耳を貸す」スキル発動! はい、ピアス

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さんのろく 「耳を貸す」スキル発動! はい、ピアス

ドンガラガッチャーーーン! な、なんだ!? ものすごい音がして目が覚めた。 転生先からもどれたのか? ここはどこだ? 廊下だった。タオルケットを掛けて寝そべっている。 服は・・・・。 着ていない。 全裸イッヌのままだった。 何も変化なーーし。 ガラガラガッチャーーーン! まただ。 部屋の中からだ。 聞き耳を立てて部屋の中を見てみる。 聞き耳を立てたら音がした様子を「見る」ことが出来る。 忘れがちだが俺の異能力の一つだ。 ギコギコギコ ミシンを踏む音がする。 それをとっかかりにして部屋の中を見渡す。 相変わらずるるのG母がミシン台にへばりついていた。 怪しい者はいない。 さっきのまま静かなものだ。 ドンガラガッチャーーーン! まただ。 今度は奥のるるの部屋からだった。 いや、最初の音もこっちだったのかも。 るるの部屋に聞き耳を立てる。 静寂を頼りに奥の部屋を見渡す。 誰も、何もいない。 るるも見当たらなかった。 俺は廊下のドアを開け、奥の部屋に向かった。 襖を鼻で開けて中に首を突っ込む。 ゴン! 「きゃん!(痛い!)」 頭に何かが飛んで来てあたった。 かなり固い大きいもの。 床を見るとそれは鉛筆削りだった。 後ろにハンドルが付いてて手でぐるぐる回すやつ。 ガン! 今度は筆箱が飛んで来た。 「来ないで!あっち行って!」 部屋の端っこの学習机から声がした。 「きゅーーん!(どうしたの!)」 「いや!あっち行って!」 そう言われても飼い主のもとへ行くのがイッヌの習性だ。 俺は部屋の中に入って、学習机のそばまで行った。 「来ないでって言ってるのに!」 るるの声は学習机の下からだった。 椅子を体の前に構えて学習机の中からこっちを睨みつけている。 るるは必死で何かに抵抗しているようだ。 るるはG母をそうしたように、なんでも思い通りにできるスキルを持っている。 どこか不自然な感じがする。 「きゃわん?(なにがあたったの?)」 俺がそう言うと、るるはガタガタと震え、 「ごめなさい。ごめなさい。ぶたないで。お願い。ママみたいにならないって約束するから、痛いことしないで、パパ」 そう叫ぶと、学習机の下の窮屈な空間で泣きじゃくり出した。 完全に幼児帰りをしているようだった。 飼い主が変になったら、側にいるのがイッヌの役目だ。 だから俺はその場に伏せをして待つことにした。  ずいぶんと時間が経った。 その間るるはずっとはすすり泣いていた。 それがいつかすんすんという鼻を鳴らす音に変わったと思ったら、 「ジョウっち、ごめんね。心配してくれてたんだよね」 と、机の中からるるの手が伸びて俺の頭を撫でた。 イッヌの俺にはるるの悲しみを慰めることなどできない。 俺はどうしたらいい? 「思い出せ」 あの子の声がした。 何を? 「くるみちゃんの時の様に」 くるみちゃんの時? くるみって誰だっけ。 あ、思い出した。 あのデコ木刀の子だ。 そういえば前にあの子の思い出に手を貸したことある。 どうやって手を貸したっけ。 ちょっと耳貸せやって言われてあの子の家に付いて行って、そのあといろんなとこに連れて行ってもらった。 その時は、えっと。これだ。 俺は耳からスタウロライトのピアスを取ると、 「わうん、わおうん(これつけてみて)」 とるるに渡した。 るるはそれを受け取ると、自分の左耳に付けたのだった。 突然、部屋がグラグラと揺れ出した。 床が波打って立っていられない。 学習机が宙に浮いて、るるも中から出て来て俺と同じように揺れに耐えている。 俺はるるの手を取って何かに捕まろうとしたが、壁にも柱にも届かない。 そうしてグラグラと揺られているうちに、 ドン! 突然床が真っ黒の黒になってG空間が開き、俺とるるは手を繋いだまま異空間に突き落とされたのだった。  そこは見たことのある玄関先だった。 ちょっと新しい家の匂いがするけど、るるの家の玄関だった。 るると俺は手を繋いで、明るい日差しの射し込む廊下に立っている。 上がり框に小さな女の子が座っている。 小学校低学年くらいの子だ。 立ち上がった。 玄関前の廊下を行ったり来たりしだした。 裸足で玄関に下りてノブに手を掛けて止め、 再び廊下に戻って突き当りの階段から上の階を気にしている。 「あれ、3年生のころのあたし」 「何してるの?」 「パパが帰って来るの見張ってる」 「なんで?」 「やばいって思ったから」 そうするうち、玄関のドアの向こうに人の影が見えた。 そしてガチャガチャと鍵を開ける音がしたかと思うと、 勢いよくドアが開いて会社員風の男が中に入ってきた。 小学生のるるがその男に向かって、 「パパ!ママはいないの。お買い物に行ったの」 といって、靴を脱いで上がろうとする父親を両手を広げて静止する。 父親はそれを片手で押しのけると、 「るるはそこにいなさい」 と言って階段を駆けあがって行った。 ドンガラガッチャーーーン! 「あなた?!」 女の悲鳴。 上の階から響く音。そして怒声。 小学生のるるは両手で耳を塞いでそこに蹲ってしまった。 「淫乱め!」 男の怒号。 ガラガラガッチャーーーン! 「貴様、恥を知れ!!」 ドンガラガッチャーーーン! 「あなた▼×◆▼×▲×!!!!」 「お前のような女は◆▼▼×▲×××!!!!」 絶え間ない怒号の応酬。 その間隙をぬうかのように、服を抱えパンツ姿の男が駆け下りてきて玄関を飛び出していった。 小学生のるるはそれさえ気づかずぎゅっと耳を塞いで廊下の隅で固まっている。 永遠に続くかと思えるほど長い時間、激しい音が上階から響いていた。 俺はそこで何がなされているのかがわかったから、聞き耳を立てることはしなかった。 小学生のるるは耳を覆たままで体を固くして、ぼたぼたと音がするほどの大きな涙を床に滴らせている。 痛々しくて見ていられなかった。 しばらくして音がやみ、父親が階段を降りて来た。 玄関先のるるを見付けると、その肩を掴み何かを口にしたようだった。 そして、そのまま玄関から出て行った。 「なんて言われたの?」 「娘のお前も淫乱か?って」 「そんなことを?」 「このころはもうやさしいパパじゃなかった」 あの男が洞にいた蛇体の怪物になるのだろうか? るるが一つため息をついて言った。 「小さい頃から、あたしはママと瓜二つって言われた」 るるはポケットからスマフォを取り出すと、母親の写真を見せてくれた。 今のるるにそっくりだった。 「パパはママが大好きだったから、ママ似のあたしをとっても可愛がった」 「それが・・・」 「真逆になって、恨まれるようになった」 愛する奥さんに裏切られて、すべてを憎悪するようになったてこと? 「次行こうか?」 再び廊下がグネグネと動き出して、立っていられなくなったと思ったら、床が抜けた。 眼下に広がる漆黒の闇。 るると俺とは異次元へと吸い込まれていく。 「なんか楽しくない?気持ちいいよね、落ちてくの」 「まあ、楽しいしきもちいい」 「よかった」 るるが少し笑った。この子はやっぱり心が強い。 --------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 るるがパニックになっています。 俺はるるの過去を探るべく、スキル「耳を貸す」をはつどうします。 はい! すたうろらいとのピアス。 次回の更新も月曜の予定です。 スター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 真毒丸タケル
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