さんのじゅういち 裸イッヌ、ふたたび飼い主の元へ!

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さんのじゅういち 裸イッヌ、ふたたび飼い主の元へ!

 次は、二度まで俺たちを過去に飛ばした板書魔王小野先生の授業だ。 今度こそあいつを倒して〆子と一緒にきららの18歳の誕生日をお祝いするんだ。 そういきまいて俺は6時限の授業に臨んだのだった。 しかし、始業のベルが鳴っても板書魔王の小野先生は現れなかった。 「来ないね」 きららが言った。 そのうち教室のあちこちで雑談が始まった。 前回の魔王の授業前に教室を覆っていた緊迫感がまったくない。 中根さんもおとなしく本を読んでいる。 康太は絵の練習を休んで天井ばかり見ている。 「今日は、違うんだろうか?」 〆子の顔を見る。 「こんなのは初めてだ」 〆子の心の声が答えた。 「じゃあ、勝ち負け関係なく新たな一日に進めるってこと?」 「このまま何もなければだけど……」 前の席に座っていたきららが振り向きながら答えた。 すると〆子が立ち上り俺の手を引き教室の前へと誘った。 「何?」 「調べる」 「何を?」 「黒板」 「なんで?」 「おかしい」 きららもいつのまにか席を立って教室の前方をにらんでいた。 俺は嫌な予感しかしないので行きたくはなかったけれど、〆子もきららも真剣そのもので断れそうもなかった。 「わかった」 俺も席を立ち、〆子に連れられて黒板に向かう。 教室前方に近づいてくと〆子が言っていた意味がよく分かって来た。 黒板の表面が水面のようにゆらゆらと揺らいでいる。 「やはりGが何かしてる?」 「分からない……」 中根さんの席の横を通って教壇に登る。 いつもなら側を通っただけでピリピリの中根さんだったが、今は俺たちがいることなど気が付かぬふうだった。 手にした本を覗いてみた。 G語で書かれていると思ったら普通に日本語だった。 ボーダーは1軍だろうと3軍だろうと日常がG語漬けになる。 それは康太の周りで起こったことを思い出せばよい。 最初にゲームアカウントがG語になってから、康太の周りはG語で塗りつぶされていった。 それは中根さんも同じはず。 何かが変だ。  黒板の前に立つと異変の内容がはっきりとした。 黒板の平面は揺らいでいるのではなく、黒板がある空間がくりぬかれ真っ黒なG空間が口を開けていたのだった。 「どういうこと?」 「上等兵殿は、気づかないか?」 心の声で〆子が言った。 「ショウが飛ばされた先はどこだった?」 「わからない。でも元の世界の時間軸上じゃなかった」 「今はどこにいる?」 「元の世界?」 その前に飛んだ先は1か月前のくるみが無双する世界だった。 何故か学園全体がヤンキーだらけになっていたが、少なくとも時間軸は同じ過去。 ところが今回飛んだ先では、るるが俺の彼女で〆子はあの嫌味な熱盛と手を繋いでいた。 あれを見た時、まるで世界が横にずれたように感じたのだった。  1か月前の世界で、ボーダーのくるみが思い出せなかった過去を、俺が「耳を貸して」思い出させた。 あんなに強くて賢いくるみが、どうして最愛の星形みいとの過去を思い出せなかったのか。 それはボーダーがパラレルな横の時間軸に囚われていて、現在・過去・未来という縦の時間軸に弱いからだ。 逆に〆子やきらら、俺たちストライパーは前後する縦の時間軸に囚われている。 だから、必ず7月6日の6限の板書魔王の小野先生を倒さなければ先に進めなくなっている。 板書魔王が邪魔立てしないこの世界。 つまり、ここは俺の戻るべき世界ではない。 「俺にはやり残したことがあるんじゃ」 それにようやく気が付いた。 俺はあの世界を後にしてはいけなかったのだ。 「どうする?」 〆子の心の声。 「もう一度行って来る」 ドン! 突き落とされた。G空間へ。 G空間を真っ逆さまに落ちていく。 上を見上げると、真っ黒い空間が黒板の形にそこだけ白く抜けているのが見えた。 光の長方形の縁からきららと〆子がこちらを見下ろして手を振っている。 〆子め! もうちょっとやり方あるだろうが!? 「きゃわーーーん!(おぼえてろよ!)」 「「「お戻りで」」で」 目を開けるとケルベロスの前にいた。俺は再び全裸だった。 「「「急に帰っちゃうから、どうしたのかと思いました」」した」 「俺は、いつ地獄(ここ)からいなくなった?」 「「「魔王がーって叫びながら枯れ木にじゃれついてるとき突然」」然」 やはり蛇身のおっさんはまだ倒せてなかったってことか。 「「「往々にして、人は他人の心の問題を簡単に考えがちです」」です」 るるのトラウマを解消してやったなんて、おこがましかった。 「俺はこれからどうすれば?」 「「「飼い犬は?」」は?」 「飼い主の元へ」 俺はケルベロスに目で合図した。 やってくれ。 「「「それでは、よい旅を」」旅を」 ドン! 再び奈落への落下。 くっそ、ケルベロスまで。 「きゃわーーーん!(おぼえてろよ!)」  気づくと俺は廊下のタオルケットの上にうつ伏せになっていた。 るるの家に戻ったようだ。 飼い主の心を勝手に想像して、勝手に癒したと思い込んで、勝手に見捨てて帰ってしまうとは。 飼い犬にあるまじき仕業。これは背任行為だ。 でも、俺を強制退去させねばならなかったってことは、 るるの父親を少しは追い詰められていたんじゃないか? じゃあ、あと何が足りなかったのか? るるのトラウマを拭い去るのに俺は何に気づけていなかったのか? ドンガラガッシャーーーン! あの音だ。 ガラガラガッシャーーーン! 前回全裸イッヌになって取得した、鼻を()かすスキルを発動した。 ところが、 「このスキルは使えません!」 と視界の右上にメッセージが出て怒られてしまった。 こんなシステム、前の時あったかな? まあ、いい。 ここはルール無用の悪党が支配する世界だ。 なんでもあの小ずるい父親に都合よくできてるのだ。 ならば、俺が本来持っているスキル、きき耳を立ててやる。 薄暗い奥の部屋が見える。 やはりだ。 るるが机の下に隠れておびえて泣いている。 小学生が使う小さな学習机の下は、とんでもなく狭いのに 女子高生のるるはそこしか隠れる場所がないのだ。 俺は「飼い犬の使命」を発動した。 これは特別なスキルではない。 飼い主のピンチの時は身を挺して守る、犬なら普通に持ってるものだ。 「きゃ、わわわーーーん!(るる、今行くよーーー!)」 俺はドアを蹴破って部屋の中に躍り込んだ。 --------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 再び板書魔王小野先生の授業に臨んだショーたちだったが、 なんだか様子が変。 全然攻めて来ねーのよ。どうなってんの? ご無沙汰していました。すっごいひさしぶりの更新です。 今後は週一で更新していきたいと思いますとか言いながら ずいぶん間があいてしまいました。 すみません。 スター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 真毒丸タケル
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